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【社説】

週のはじめに考える アメリカは覚醒するか

 トランプ米政権が発足して二十日で一年。米国はすっかり色あせました。それでも草の根では、輝きを取り戻そうとするうねりが起きています。

 「ママ、僕たちはこの国を出ていかなくてはならないの」

 ペルー移民のエリザベス・グズマンさんは、小学生の息子のこんな質問に驚いて思わず聞き返しました。

 「なぜ、そんなことを言うの」

 「だって今度の大統領はスペイン語を話す人が嫌いなんでしょ」

 二〇一六年十一月、民主党のヒラリー・クリントン氏を破ってトランプ氏が当選を果たした直後のエピソードです。

◆躍進した女性と少数派

 その一年後、首都ワシントンと接する南部のバージニア州に暮らすグズマンさんは州議会の下院選に出馬し、共和党の現職を破って初当選を果たしました。

 選挙戦では「アメリカン・ドリームを守ろう」と訴えました。息子の不安に衝撃を受けてスローガンに掲げたのです。

 ソーシャルワーカーのグズマンさんは政治経験はありませんが、ラティーノ(中南米系)の待遇・地位が低いことに不満を抱き、大統領選では民主党陣営のボランティアとして活動しました。そうしているうちに政治の道を志すようになりました。

 バージニア州でラテン系の女性下院議員が誕生したのは初めて。しかもラティーノの女性はもう一人当選しました。ほかにも史上初めてアジア系(元ベトナム難民)の女性と、心と体の性が異なるトランスジェンダーの女性も下院議員になりました。

 米国で昨年十一月に行われた地方選では、女性に加えて、黒人、ラティーノ、LGBTらマイノリティー(少数派)が目覚ましい躍進を遂げました。

◆怒りと恐怖に駆られて

 西部モンタナ州の州都ヘレナでは、一九九〇年半ばに西アフリカのリベリアから内戦を逃れてきた黒人男性のウィルモット・コリンズさんが市長に当選しました。元難民のコリンズさんは、トランプ時代に入って強まった難民敵視の風潮を憂えて出馬しました。

 西部ワシントン州のシアトルでは、初のレズビアン市長が、南部ノースカロライナ州の中心都市シャーロットでは初の黒人女性市長がそれぞれ誕生しました。

 民主党の女性候補を支援する政治団体エミリーズ・リストには、二万六千人以上の女性が政治活動に参加したいと申し出ています。目指すのは、連邦議会レベルから州の知事と議会、それに市長とさまざまです。

 トランプ政権発足前の一六年、エミリーズ・リストの希望者は千人足らずでした。今年十一月に中間選挙を控えていることもありますが、これは驚異的な伸びです。

 こうした現象は、トランプ政治への怒りと恐怖が女性やマイノリティーを政治へ駆り立てている結果。「トランプ効果」はほかにもあります。

 「トランプ氏ほど人権を顧みず、米国の歴史、憲法への理解が乏しい大統領はいない」と、全米市民自由連合(ACLU)に所属する弁護士のスティーブン・シャピロさんは批判します。

 ACLUは法律家が所属する米国最大の人権団体。一九一七年にロシア革命が起き、米国でも共産主義への警戒感が強まった一九二〇年に発足しました。

 当時の司法長官の名をとった「パーマー・レイド」という赤狩りが吹き荒れ、不当逮捕が続出するなか、権力の暴走を止めるために法律家が立ち上がったのが、ACLUです。

 今はトランプ氏が出したイスラム教徒入国禁止令やトランスジェンダーの人を軍から締め出す大統領令の違法性を訴えて法廷闘争を繰り広げています。

 ACLUは四十ドルの年会費を軸に個人からの寄付などで運営されています。トランプ大統領誕生後、五十万人だった会員は三倍の百五十万人になりました。投資に回せるほど資金は豊かになり、シャピロさんは「トランプ氏はACLU財政への最大の貢献者だ」と皮肉たっぷりです。

◆若い国の復元力に期待

 米国の民主主義の破壊者とも批判されるトランプ氏ですが、支持率は低空飛行を続けながらも四割ほどを保っています。

 この状況を前に、米国の政治・社会が制度疲労を起こし、国の支柱である自由や平等、多様性という価値を維持するのはもはや限界ではないのか、という悲観論も聞こえます。

 それでも、米国は若い国です。歴史や伝統のしがらみが薄い分、活力と柔軟性にあふれています。米国が覚醒し、本来の良さを取り戻すべく復元力を発揮することを期待したいものです。

 

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