東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

取り調べ録画 不当捜査を排すために

 刑事事件で取り調べを録音・録画する本質は、捜査官の威圧や利益誘導など違法・不当な捜査を排除するためだ。「自白」の場面だけを裁判員に見せては判断を誤らせかねない。慎重さがほしい。

 刑事裁判には白か黒しかない。もし裁判員が「灰色だ」と思ったら、白とせねばならない。無罪推定の大原則が働いているからだ。

 被疑者・被告人と犯罪事実を結び付ける直接証拠がなく、間接証拠しかない場合は、確かに裁判員は大いに悩む。その際、取り調べ段階で被疑者の「自白」場面を裁判員に見せたらどうなるだろうか。

 「黒だ」という心証を強く与えることになろう。実際に検察側はそんな立証方法を用いている。それを全否定するわけではないが、裁判官は録音・録画の再生を法廷で認めることには、慎重であるべきである。

 そもそも逮捕から自白、取り調べ終了までの間の全過程が録画されているかどうか。あるいは任意捜査の段階で、違法な取り調べがないかどうか。そんなチェックの目も持つべきなのだ。

 日本の刑事司法では取り調べは、弁護士の立ち会いを排除した「密室」で行われる。だから、捜査官の威圧や利益誘導なども行われ、冤罪(えんざい)の温床とされる。意に反する供述を強いられ、調書が作成されることも少なくなかった。

 だから、「自白」した調書に署名があっても、公判段階で否認に転ずることも多い。実際に足利事件や布川事件など、不当な取り調べによる冤罪も起きた。

 二〇一六年には裁判員裁判の対象事件や検察独自捜査事件について、全過程を録画する改正刑事訴訟法が成立した。だが、それでも対象事件は全事件の3%にすぎず、全く不十分だといえる。

 先月の栃木小一女児殺害事件で東京高裁が一審を破棄し、あらためて無期懲役としたのは、違法捜査のチェック機能だったはずの録音・録画が、検察側の武器として使われることへの警鐘であろう。判決理由では、録音・録画で犯罪事実を認定した一審判決を「違法」と強く批判した。

 一六年五月からの二年間、全国の地裁で判決があった刑事裁判で、検察側が録音・録画を証拠申請し、認められたのは55・7%。裁判官の判断は割れている。

 だが、あくまで取り調べ録画の目的は、密室でのチェック機能だったはずだ。冤罪をなくす−その原点は忘れてはいけない。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報