ドイツ新大統領に、ウルフ前ニーダーザクセン州首相(51)が就任した。歴代大統領が担ってきた「言葉の政治家」としての役割が期待されるが、今回の選挙で現地マスコミの焦点だったのはむしろ対抗馬だったガウク氏だ。
ヨアヒム・ガウク氏(70)。ベルリンにある旧東独秘密警察資料館の初代代表だ。壁崩壊時は、旧東独のプロテスタント牧師として民主化の先頭に立った。
統一後残された秘密警察(シュタージ)による盗聴や秘密工作に関する資料は膨大で、対象者は六百万人、書類の山は全長百八十キロメートル相当ともいわれた。
ガウク氏は、東独元首相ら多数の秘密工作員の実名暴露に繋(つな)がった資料館トップとして旧東独側から強い批判に晒(さら)されながら、冷戦時代の暗部として次世代に引き継ぐべき「負の遺産」の管理に道筋をつける重責を担った。
退任して久しいガウク氏が登場し、メルケル首相が推したウルフ氏と互角の争いをする姿には少なからず驚いた。与党内権力抗争の影もちらついたウルフ氏に対して、野党候補ガウク氏に強い党派色はなく、超党派の支持もあった。議会選出ではなく一般投票だったらどうなっていたか。
ユーロ危機以降、統合欧州の軸たるドイツが内向きに転じて久しい。ドイツは次世代に継ぐべき言葉を語っているか。「陰の主役」の健闘は、そんな問いかけに聞こえる。 (安藤徹)
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