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【私説・論説室から】

救いたかった人たち

 十一月中旬、北朝鮮の兵士が板門店を越えて韓国側に亡命した。銃撃を受け、大学病院に送られた。著名な救急医の李国鍾(イグクチョン)氏(48)がメスを執り、奇跡的に意識を回復した。

 李氏は二〇一一年、ソマリア海賊に襲われた韓国船の船長を、現地まで飛んで治療し、生命を救ったことで知られる。韓国では彼を主人公にしたテレビドラマも制作された。

 李氏の父は、朝鮮戦争で地雷を踏んで目と腕、足にケガをし、障害者として認定された。「この社会が、いかに障害者に冷たいかを感じ、医大に入った」と語っている。

 彼の仕事ぶりは有名だ。三十六時間勤務し、仮眠後再び三十六時間、ベッドを埋める患者に対応する。医療ヘリで事故現場に行くことも多く、肩や足を骨折したこともある。

 ふだん治療するのは、交通事故の被害者や工場、建設現場といった危険な環境で働く人たちだ。「機械に挟まれた内臓破裂に比べれば、銃傷は簡単」と語ったこともある。

 もっとも脱北兵士は、至近距離で腹部など数カ所に銃弾を浴び、体内に寄生虫もいたから、治療は簡単ではなかったはずだ。

 李氏は、脱北兵士の状況を説明する会見の中で、あえて韓国の救急医療の現状を問いかけた。設備と人員不足で救えない人たちは、われわれの側にいる−。訴えを受け、緊急医療の充実を求める署名運動が始まり、政府も予算の大幅増額を決めた。  (五味洋治)

 

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