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ネットと言葉(2)温かみあるか見極める 漫画原作者・小池一夫さん

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 <ネットの匿名掲示板等を作家は見ない方がいい><中には有益な意見もあるが、それを見付ける為(ため)に、悪意の深淵(しんえん)を覗(のぞ)き込む事はない>。昨年十一月末、ネットと表現をめぐるツイッターでのつぶやきが、四千件を超えるリツイートを集めた。発言の主は漫画原作者の小池一夫さん(79)。「言葉の通じない人とまで友達になろうと努力する必要はない」と、ネットとの付き合い方について語る。

 小池さんがツイッターを始めたのは二〇一〇年三月。きっかけは「若い世代と向かい合うため」だった。約四十年前からクリエーター育成塾を開き、後進に「キャラクターの重要性」を説いてきた。しかし、教授として招かれた大阪芸術大で講義した後、学生から「で、キャラクターって何ですか」と尋ねられ、愕然(がくぜん)とした。「僕が同じ世界や言葉を共有できるのは、だいたい団塊の世代くらいまで。十八歳はその下の下の下の世代。対人関係から言葉の使い方まで、別の国の住人かと思うほど大きな違いがあった」

 着目したのが、ちょうど話題になり始めたツイッターだった。スタッフや家族に尋ねながら投稿を続けるうち徹夜するほどのめり込んだ。「意外と素直な意見が返ってきたり、悪口しか言わない人がいたり。自分の中で整理され、見えてくるものがあった」

 豊富な経験に基づく人生論と、自らの肌感覚で学んだネット論が融合したツイートは含蓄が深く、広い世代の共感を呼んだ。現在のフォロワーは二十二万人を超える。学生とも「ネットで人気のゲームの話題などをきっかけに、内面の話までできるようになった」という。

◆悪意は受け流す

 一方で、つぶやきが「炎上」し、心ない言葉を浴びせられることも少なくない。「匿名でやれば悪意が噴き出してくるのは誰にでも予想できる。人間の業ですから。ただ、これが拡大した時どうなるのかは、まさに社会問題。怖いと思う気持ちはある」

 では、ネット上の悪意とどう向き合えばいいのか。「大事なのは、優しいことを言われた時は十倍に、悪意を返された時は百分の一ぐらいに感じること。底なし沼に引きずり込まれてはならない」と説く。批判された時には「その文章の底に温かいものがあるか、ないか」を見極める。前者は真摯(しんし)に受け止め、後者は聞き流す。「たとえ反対意見であっても、温かいものと、憎しみのこもったものとの違いは言葉の中から感じ取れる。邪悪な言葉と関わる必要はないし、関わってはいけないと思う」

◆物書きの自主性

 その考えが、冒頭のツイートにつながった。同趣旨の発言は、数年前から繰り返し投稿している。<表現者として一番恐ろしいのは、自分の表現を好きでいてくれる人の事よりも、自分の事が嫌いな人間の存在を、始終考えてしまう癖が付く事>とも。「ネット上の無責任な意見に左右されてはいけない。常に物書きとしての自主性を持っていなければ」と自戒を込める。

 ネットという海に言葉を投げかければ、善意の声も悪意の声も集まってくる。それでも小池さんは毎日発言を続ける。「言葉がなくなってしまえば、あとは物理的な力しか残らない。できるなら言葉で理解し合いたいじゃないですか。年寄りの言うこともたまには聞いてみろ、そういう気持ちですね」 (樋口薫)

 <こいけ・かずお> 1936年、秋田県生まれ。『子連れ狼』『クライングフリーマン』などのヒット作を手掛ける。77年に「小池一夫劇画村塾」を開設。漫画家の高橋留美子、原哲夫、ゲームデザイナーの堀井雄二各氏らが輩出した。近著に、ツイッターでの発言をまとめた『「孤独」が人を育てる』など。

反響が大きかった小池さんのツイートの一部

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