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ネットと言葉(4)可視化で消える中傷 映画作家・想田和弘さん

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 「何この人?日本人じゃないんだね」「この人朝鮮半島系でビンゴだと思う。容姿に特徴が出てる」…。

 昨年十月、映画作家の想田和弘さんのツイッターに、こんな中傷の言葉が続々とアップされた。ネット右翼的な人たちから想田さんが浴びせられた言い掛かりの数々を、そのまま転載したのである。

◆並ぶ罵詈雑言

 その数は二日で約四十件。「レイシズム可視化プロジェクト」と名付けたツイッター上の実験だった。

 「ツイッターで歴史認識の話を書くと必ず『おまえ朝鮮人だろ』と、レイシズムど真ん中のコメントが来るんです。そういうのみんな知らないだろうと思って」と想田さんは言う。

 罵詈(ばり)雑言の並んだツイートの異様さは、一覧で眺めると一目瞭然だ。こんなプロジェクトを始めれば、さらに反発を招くのだが、それでもひるまない。

 そうこうするうち不思議なことが起きた。「可視化」された発言者の中に、こうした中傷の言葉を削除してしまう人が出てきたのだ。

 「こういうツイートって日にさらされると消えてしまうドラキュラのようなものなんだな」と想田さんは思う。

 想田さんはリベラルな言論人としても知られる。安保関連法や憲法改正、歴史認識問題をはじめとした安倍晋三首相の政権運営や、橋下(はしもと)徹前大阪市長の政治手法などを批判してきた。

 その主な手段がツイッターだ。過去のツイートを見ると、「可視化プロジェクト」にあったような極端な発言の人たちと論争を繰り返してきたのが分かる。時に、他のツイッター利用者から「このような幼稚な揚げ足取りにいちいちとりあっていては」と心配されることもある。

 「こういう相手を説得できるとは思っていません。ただ、ツイッターのような公開の場で、自分自身の考えを表現すれば、右でも左でもない中間領域の人の考えるヒントになるかもしれない」

 そんな願いを込めて、想田さんは自身の取り組みをごみ拾いにたとえる。一人の人間がいくら頑張ったところで、街中に散らばる無数のごみを片付けることは難しい。でも、一つのごみを拾うことから始めなければ、永遠に街はきれいにならないし、もしかすると、触発された誰かがごみ拾いの輪に加わってくれるかもしれない。ささやかでも、こんな行為の積み重ねが、社会を変えるきっかけになると信じている。

 政治的な発言を始めたきっかけは二〇一一年三月の東日本大震災だった。東京電力福島第一原発事故について、当時の政権は「ただちに健康に影響はない」と繰り返した。「そうやって政府が隠すなら、そうでない情報を発掘して自分だけでも、拡散しようと思った」。それまで、政治的な立場を鮮明にすれば自分の映画を色眼鏡で見られると懸念していたのに「映画なんてどうでもよくなった」と笑う。

 やはり最近話題になった想田さんの取り組みが「菅(すが)官房長官語で答える」だ。ツイッターで、自身に寄せられる批判に対し、菅義偉(よしひで)官房長官の記者会見での発言などを引用して、「その批判は当たらない」などと返答する。「ツイッター実験が話題 無敵の“官房長官語”って?」とネットニュースでも注目された。

◆黙認できない

 想田さんはその趣旨について、ツイッターで「安倍氏の言葉も橋下氏の言葉も、基本的にはコミュニケーションを遮断する目的で使われる。実はそれ以外の機能はない。菅語を回りくどくすると安倍語になり、攻撃的にすると橋下語になる」と解説した。相手の質問や抗議に向き合わず、けむに巻く−そんな論法を自ら用いてみせることで、その欺瞞(ぎまん)的な様子を分かりやすく「可視化」してみせたのだ。

 想田さんがこんなふうに手を替え品を替え、粘り強く声を上げ続ける背景には、ヘイトスピーチに代表されるように、ネット上の言論が強い影響力を持ち始めている現実がある。「たとえば僕はイラクに行ったこともないのに、メディアの情報を仕入れることでイラクについて論じている。僕のイラクというリアリティーはメディアの中にある。そのメディアでネットの占める割合が高くなっているいま、われわれの現実の半分くらいはネットにある。だから、単に黙認していい段階は過ぎていると思うんです」 (森本智之)

 <そうだ・かずひろ> 米ニューヨーク在住の映画作家。1970年、栃木県生まれ。東京大卒業後、米国で映画制作を学んだ。台本やナレーション、BGMなどを排した「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの手法を提唱する。日本流どぶ板選挙を追った『選挙』は米放送界で権威あるピーボディ賞を受賞。世界200カ国でテレビ放映された。『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』『熱狂なきファシズム』など著書も多数。

 

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