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【土曜訪問】

日本列島に未来描く 究極のメッセージを発信 遠藤一郎さん(未来美術家)

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 一月十七日、神戸市のデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で行われたライブペイント。“未来美術家”遠藤一郎さん(33)が床に敷かれた透明なシートをじっと見つめる。やがて細い体を音楽に乗せ、ピンク色の絵の具で円を描き始めた。一時間ほどで多色の帯の地にピンクの太陽、黄色い星、赤い三日月が描かれた。最後に「おなじ」「ほし」「たいよう」「つき」の文字を書き入れると、観衆に向かって語った。「神戸にも東北にも、星、太陽、月は何が起きても『ある』。だから明日を迎えられる。その強さで、神戸も東北も震災を乗り越えて生きていくんだ」。拍手が起こった。

 「僕はすげえ、“ふつう”なんですよ」。そう切り出す。根幹となる活動は「未来へ」という究極のメッセージを、多くの人に伝えること。そのために、側面に「未来へ」と大書した黄色いバス「未来へ号」に乗って全国を巡り、出会った人に、自分の夢をバスに書いてもらう。「未来へ向かう一番のエネルギーは夢を思い描いてワクワクすること」だからだ。世間的には、とても普通ではない。

 静岡県出身。十代から「過去があって、今、僕らが生きている。行き着くところは『未来へ』。現代人にはそれが足りない。だから、伝えなければ」と考えていた。当時は音楽で伝えようとしたが、「表面的にカッコつけちゃって伝わらない。だったら大ばかになって、やるしかない」。

 二〇〇六年、小型バンの初代・未来へ号でイベント会場にゲリラ的に乗り付けることから始めた。その後、現代美術家、会田誠さんとの出会いを通じてアーティストとして認められるようになったが、帰宅後、自宅の駐車場に止まっている未来へ号を見て疑問に思った。「僕自身も生きているリアル感に身を置かないと、みんなの夢が乗っているこの車のハンドルを握ることはできない。夢は走っていなきゃ」。四年前にアパートを解約。それ以来、車中で寝起きしている。

 「人間が『未来へ』と思うのは当たり前。これを今つかみ直さないと百年、二百年後、絶対にダメになる。それが分かっているやつが分かってないやつに伝えるしかない」。手段は「一番有効なものを選ぶ」。この日行ったペイントのほか、ダンス、連凧(だこ)づくりのワークショップ、落語もある。なるほど、普通で自然体なのは世間でなく、遠藤さんの方だと思えてくる。

 活動が軌道に乗ったころ、東日本大震災に遭った。滞在中の東京では情報が錯綜(さくそう)していた。とにかく現場を見たいと、二週間後に未来へ号で仙台から石巻、女川を回った。その時に感じたのは「ヒヤッと冷たい感じ。人がおらず、動かないから温まらない。温めるためには摩擦を起こさないといけない。そのためには人が行かなければ」。被災地に行きたい人なら、若者からおじさん、外国人まで手当たり次第に運んだ。同時期、東京で若い美術家たちが「アートに何ができるか」と議論しているのを見て激昂(げっこう)した。「それを気にしているのなら行け。お前のアートなんか必要ない。お前が必要なんだ」。行く先々で書いてもらう夢には「みんな」という言葉が増えた。「みんなで帰りたい、みんなで元気になりたい…。自分が一人でないことに気づいたのです」。震災前、私たちはそんな当たり前のことすら忘れていた。

 東京や、仕事で出掛けた先では被災地で見たままを話した。気になったのは、震災や原発事故の受け止め方が、各地でまったく違っていたことだ。「全国でいろんな問題や幸福、歓喜が同時に起こっていて、みんな頑張っている。ならば、心の一部分だけでも一つにして、次の一歩を踏み出していくことが必要だ」

 この発想から「RAINBOW JAPAN 2012」プロジェクトが生まれた。昨年一月、GPS(衛星利用測位システム)を利用し、未来へ号が走った軌跡をパソコン画面上にリアルタイムで描き出す手法で、日本列島に「いっせ〜の〜せ」と書いた。「一回では伝えきれない」と六〜八月にかけ、「→ARIGATO→」とローマ字で綴(つづ)った。支援してくれた世界中の人への感謝の気持ちだ。前後の矢印に「この島の『ありがとう』が次につながっていく」との意味を込めた。今、第三弾として、船で海に軌跡を描くことを計画しており、「未来へ丸」を建造中。「未来へ号と連動して、本州の真ん中にでっかくはなまるを描いてやろうかな」

 遠藤さんは言う。「『夢を抱けない世の中』なんて、人が勝手にやってる“運動”にすぎない。地球上の他の連中はテンション高く生きている。だから僕は『お前にもやればできる』と伝えたい。可能性は、その辺に転がっているのです」 (三沢典丈)

 

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