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【土曜訪問】

時代とらえて物語に 高校紛争を43年ぶりに描く 盛田隆二さん(作家)

埼玉県川越市の県立川越高校前で

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 高校生が激しく社会に異議を唱えた時代があった。一九六九年から七〇年をピークに、全国で同時多発的に起きた「高校紛争」。集会やデモ、教室のバリケード封鎖…。生徒たちが「制服制帽の廃止」や「政治活動の自由」を求めて行動を起こし、現代では想像できないような光景が各地で繰り広げられた。なぜ彼らは立ち上がったのか。当時の高校を舞台にした長編小説『いつの日も泉は湧いている』(日本経済新聞出版社)を出した作家盛田隆二(もりたりゅうじ)さん(58)を訪ねた。

 「サッカー部員だった新入生の僕が練習に来たら、集会を開こうとした生徒を入れないように正門が封鎖されていた。僕が目撃した『紛争』はその一瞬だけでした」。埼玉県川越市の県立川越高校。盛田さんは母校の前で、七〇年の入学当時を振り返った。

 正門のクスノキの下で連日のように反戦集会が開かれ、ハンストまであったのは、六九年のことだ。紛争は入学前にほぼ終わり、その成果として盛田さんの代から制服が廃止された。授業で「公害研究」などの自主講座も始まった。

 「自分が闘ったわけでもないのに自由を勝ち取ってしまった。何か違和感があった」。その思いを形にしようと生まれて初めて書いた小説が、『高二時代』(旺文社)の懸賞で一等賞をとった。紛争で留年した先輩と「守田少年」の交流を描いた短編「糠星(ぬかぼし)」。作家を目指す出発点となった。

 「今回の作品は四十三年ぶりの続編とも言えます。デモの参加を呼びかける携帯電話もツイッターもなかった時代に、なぜ同時多発的に紛争が起きたのか。自分の一歳上の分身を書き、あの時代を生きてみたかった」

 六九年は、ベトナム戦争に反対する「ベ平連」の集会が各地で開かれ、日米安保条約の自動延長を翌年に控えた「七〇年安保闘争」が盛り上がった年だ。大学では「全共闘」などの学生運動が激化し、東大入試が中止された。紛争は高校にも飛び火し、多くの生徒が逮捕された。「川越に近い朝霞の米軍基地から、毎日のように兵隊がベトナムに送られた。僕ら中高生は『沖縄だけでなく、日本中が米軍基地だらけになる』とリアルに感じていたんです」

 小説では埼玉県内の「K高校」に通う一年生の新聞部員守田が、「政治活動の自由」などを求めて学校側と対立し、紛争に巻き込まれていく。認知症の父親を介護しながら脱原発の官邸前デモに参加してきた盛田さんに重ねるように、現代の主人公も描かれる。「青春小説」の枠を超え、四十年以上の時代の流れをとらえた作品だ。

 「今の高校生が読んだら、歴史小説やファンタジーのように感じられるかもしれません。でも、当時の高校生たちは自分たちが頑張れば社会を変えることができると純粋に信じていた。空気を読んで他人の顔色ばかり見てしまう今の若い人たちに、エールを送りたい気持ちもあります」

 マスコミは盛田さんの世代を「シラケ世代」「無気力・無関心・無責任の三無主義」と呼んだ。「クールにしらけきった雰囲気は確かにありました。安保は自動延長され、学生運動は内ゲバで終わった。自己表現は恥ずかしいという雰囲気があった」

 七二年の情報誌『ぴあ』の創刊は時代を象徴していたという。「演劇や映画の情報を、メジャーとマイナーの区別なく網羅する雑誌が支持を集めた。『論評しない』ことが求められていた」。盛田さんは大卒後、その『ぴあ』に就職し、首都圏の街の情報を詳細に記す「ぴあマップ」を制作した。街を連日歩き、新しい建物を地図に書き込んだ。しかし、リアルタイムの情報は、すぐに古びる。「小説家になりたかったはず。自分なりの物語を作りたい」と街の歴史を徹底的に調べ、新宿に生きる一族の三百年にわたる物語『ストリート・チルドレン』を書き上げた。三十五歳での単行本デビューだった。

 学校など特定の状況で話すことができない「場面緘黙(かんもく)症」の娘を育てる母親らを描いた『二人静』(第一回ツイッター文学賞受賞)、三十代の主婦を主人公にした『おいしい水』をはじめ、盛田作品では登場人物の生きる世界がリアルに描かれることに定評がある。「しょせん人間はちっぽけなものですから、<私>にこだわって内面を深く掘り下げても、世界が狭くなる。もっと時代を直観的にとらえる大きな物語を書きたいと思ってきました」。今はシングルファーザーを主人公にした作品を文芸誌に連載している。戦争末期に上京して看護師になった母についても書くつもりだ。物語は次々と湧き出している。 (石井敬)

 

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