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【土曜訪問】

男女関係の苦悩と救い 新作エッセーが話題 末井昭さん(編集者、作家)

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 編集者で作家の末井昭(すえいあきら)さん(69)が、豊富な話題を振りまいている。五月には新作エッセー『結婚』(平凡社)、『末井昭のダイナマイト人生相談』(亜紀書房)の二冊を同時発売。三十代までの半生をつづった『素敵なダイナマイトスキャンダル』は来年春の映画公開が決まり、ちくま文庫から原作が復刊された。

 <芸術は爆発だったりすることもあるのだが、僕の場合、お母さんが爆発だった>

 『素敵なダイナマイトスキャンダル』はこんな一文で始まる。末井さんは幼少期に母親を亡くした。隣家の若い不倫相手とのダイナマイト心中という、衝撃の体験だった。

 「何かを表現するっていうふうに性格がなっていったのは、母親がいたからっていう感じもありますよね。内向的になったっていうか」

 岡山県から上京して風俗店の看板書きを始め、一九七五年にアダルト雑誌の編集者に転身する。その後、白夜書房(旧セルフ出版)を舞台に『ウイークエンドスーパー』『写真時代』などの伝説的な雑誌を創刊。写真家の荒木経惟(のぶよし)さんとのコンビで、八〇年代の出版界に一時代を築いた。

 退職後の二〇一三年に出版した『自殺』(朝日出版社)は、講談社エッセイ賞を受賞する話題作となった。「東日本大震災がきっかけになって、人助けとは言えなくても、人に届くような文章を書いていきたいと思ったんですよね」。自身の体験をつづり、自殺を考えている人に向けて「どうか死なないで」という気持ちをまっすぐに訴えた。

 刊行後には「自殺を思いとどまった」「生きようと思った」などの反響が続々と届いた。「『自殺』を書いてから、僕はいいひとのように思われてる」と笑う。「これもちょっと問題があるんだよね」

 同じ漢字二字のタイトルの『結婚』では、妻で写真家の神藏美子(かみくらよしこ)さんとの結婚生活を書いた。二人はダブル不倫のすえ、ともに配偶者との離婚を経て結婚した。「自分でもまさか五十を前に違う人と一緒になるなんて夢にも思わなかったですよね。衝動的ですよね。そこはうちのおふくろに似ているんじゃないかな」

 すぐ、二人の生活はケンカばかりになった。「僕の奥さんって、すごく感情的だし、わがままだし、自分のことしか考えない人なんですよね」

 それでも二人は、聖書の言葉を共通の指針として愛を深めていく。「聖書は生活のハウツー書だと思ってます。神様の話になってくると僕はもう分からないんで、ある真理に沿った法則が聖書だと捉えてるんです。法則通りにすれば、何でもうまくいくようになっているんじゃないかと」

 末井さんに聖書の価値を伝えたのが、聖書研究サークル「イエスの方舟(はこぶね)」を主宰していた故千石剛賢(せんごくたけよし)氏。大勢の女性との共同生活が一九八〇年ごろにメディアを騒がせ、「千石イエス」ともあだ名された。団体には好奇の目が向けられたが、次第に実情が明らかになる。「(女性たちは)家に帰れないんですよ。ぐじゃぐじゃした問題を抱えていて。千石さんは要するに、すごくおせっかいなんですよ」

 騒動への好奇心から千石氏の本を手に取り、その思想に引き込まれた。中でも「イエスには、性欲というものはない」という主張に驚いた。「簡単に言えばイエスには原罪がないからですよ」。末井さんは「原罪」の意味を、自分と他人とを隔てる自我のことと説明する。「原罪がないということは、他人がないということです。すべてが自分なわけです。すべての人を自分の子どものように愛せるわけです。だから性欲がないと」

 日常生活をともにする結婚相手は「いちばん身近な他人」と呼べる存在だ。「私がある以上はあなたがある。それは常に壁があるということですよね。その壁をいちばん越えやすいのが結婚なんです」

 本書はさらに人間関係の本質へと迫る。<「結婚」して男と女が一体になれたとき、初めて他者を愛した実感が得られるのだと思います。他者(妻)を愛せたら、その愛は外にも広がっていきます。結婚の意味はそこにあるのです>。末井さんは「パラダイスが生まれるんです。聖書的に言えばね」とほほえんだ。 (小佐野慧太)

 

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