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【土曜訪問】

「情」の支配に対抗 「あいちトリエンナーレ 2019」芸術監督 津田大介さん(ジャーナリスト)

岩手県大槌町の震災がれきを天井に配した事務所で、芸術との関わりについて話す津田さん

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 日本最大級の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」で、次回二〇一九年の芸術監督を、ジャーナリストの津田大介(つだだいすけ)さん(43)が務める。インターネットやメディア事情に通じ、政治や社会の問題について幅広く発信をしてきた人だが、芸術に詳しいという印象はなかった。異例の人選は、どんな化学反応を生むのだろう。本人はどう考えているのか、話を聞きに行ってみた。

 「ごめんなさい!」。約束の時間に遅れた津田さんが、慌ててエレベーターから降りてきた。東京・六本木の古いオフィスビル。自身が運営する会社の事務所がある。「選挙期間、すごく忙しくて…」。眠気を払うように頭を振った。

 疲れた様子も無理はない。インタビューをしたのは、衆院選の投開票日の三日後。直前まで、テレビやラジオ番組の出演、新聞などへの寄稿のほか、政治情報サイト「ポリタス」の運営、開票実況イベントと、表に出るものだけでも、仕事がぎっしりだった。だが「まずアートとのかかわりから」と話し始めると、一気に表情が生き生きした。

 実行委員会から監督就任を依頼するメールが届いた時は「間違いかな」と思ったという。引き受けるのもためらった。「指名はありがたいけど、アートに関しては素人も素人。ちょっと無理かなと」。だが、これまでの活動を振り返るうちに考えが変わった。「この難しい時代にアートの側も、社会とどう接続するか問われている。だから自分に声がかかったんだろうと。新しい何かに気づかせるという点で、アートの根元は、ジャーナリズムとも近いと思うんです」

 そのことを最初に意識したのは、東日本大震災の三カ月後にプロデュースした復興支援の音楽イベント「SHARE FUKUSHIMA」での体験だった。福島県いわき市で津波被害を受けたコンビニエンスストアを舞台に、アーティストらと協力し、パフォーマンスライブを実施したのだ。東京からの鑑賞ツアーには、ボランティア活動も盛り込んだ。ライブが始まると、音楽を聴いて涙する地元の人を目にした。「自己満足にならないよう、現地の声を聞きながら進めたんですが、最終的に響くものができた気がした。そして復興には、芸術の力が必要なんだと実感しました」

 <素人>ではあっても、このほかにも「あいちトリエンナーレ2013」のトークプログラムに出たり、新潟県の「大地の芸術祭」のオフィシャルサポーターを務めたりと、アートの周辺での活動が実は多い。

 「自分は結局、取材などを通じていろんな領域の人と人をつなぐ活動をしてきたんですよね。その中で、クリエーティブとはどういうことかも考えてきた」。早稲田大の在学中から、パソコン雑誌のライターに。やがて音楽配信と著作権など、インターネットをめぐる諸問題の識者として知られるようになった。さらに津田さんの名を広めたのは交流サイト「ツイッター」だろう。サービスができて間もない二〇〇七年に早々と登録。話題のイベントの様子を投稿で実況し続け、その行為は「tsudaる(つだる)」という造語で呼ばれるほど注目された。震災以降は、政治情報サイトも作り、インターネットと政治の関係を重要なテーマとしている。

 ツイッターの利用者は、十年で爆発的に増えたが、一方でさまざまな差別発言やフェイクニュースの問題も顕在化しつつある。新しいメディアによって頭角を現した一人としてどう見ているのか。「以前、ツイッターの利用者が増えれば政治を変える、と本に書いたんです。実際に力は持ちましたが、当時の想像より、負の側面が目立つようになっていますね」

 トリエンナーレのテーマは、そんな問題意識をふまえ「情の時代 Taming Y/Our Passion」と決めた。英語は「あなたの(わたしたちの)情を飼いならす」の意。「情報」への信頼がゆらぎ「感情」が支配しがちな社会に、アートの力で対抗するという思いを込めた。「二年後のその先も、示せるような祭典にしたいですね」。アーティストたちは、いったいどんな回答をするのだろう。 (中村陽子)

 

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