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【土曜訪問】

ハラハラして切なくて 『傘寿まり子』で高齢者描く おざわゆきさん(漫画家)

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 八十歳のベテラン女性作家が主人公の漫画『傘寿(さんじゅ)まり子』が、五月に発表された講談社漫画賞一般部門に輝いた。長く生きすぎて家族の邪魔をしていると感じた幸田(こうだ)まり子が、リュック一つで家出するところから、物語は始まる。その行方にハラハラし、まり子の切なさや孤独感、人生にピュアに向き合う姿に引き込まれる。漫画誌『BE・LOVE』に二〇一六年から連載中で、コミックは既刊六巻(講談社)。著者の漫画家・おざわゆきさん(53)に、東京都内で作品について聞いた。

 なぜ、八十歳(傘寿)を主人公に? 「母が八十代なんですが、高齢の女性が周囲に多くて。踊りを習っていた時も、年上の生徒さんと一緒で、想像しやすいかなと思い付きました。介護ということにはなってないんですが、親が高齢だからそういう社会問題のニュースを見たり、関連するコラムを読んだりもする。高齢者を取り巻く環境がどういうものかは、なんとなく知ってる感じですね」

 家を出たまり子はネットカフェで寝泊まりし、昔憧れた人に再会して同棲(どうせい)を申しこまれ、ネットゲームを通じて友人をつくり…。新しくウェブ雑誌を立ち上げる夢も抱く。「母を見てると昔、思い描いていた高齢者よりずっと元気。高齢者は進化していると思う。行動的ですし。ゲームセンターでは高齢なお客さんが多いそうですし、携帯も『らくらくホン』でなくハイブリッドなのを使いこなして、文化や機械に強い人が増えている。連載を始める時に高齢の方のエッセーを何冊か読んだんですが、総じて無欲にみんなと仲良く、体にいいものだけ食べて物を減らして…って書いてあって『ああ、自分は無理かも』って思ってしまったんですね。そうではない方が多いし、そちらを描いた方が面白いし現実的かな、と」

 中でも最新第六巻の「ごみ屋敷」をめぐる描写は、リアルさを感じさせる。

 「ごみ屋敷の住人は、かつては街の変わり者でバラエティー番組に取り上げられるような人だった。でも最近は身近になってきてると思うんですね。親の家の片付けをどうするかという問題も浮上してきている。あの世代の人は物をため込む傾向がどうしてもあり、本人たちはごみと思ってない。社会的に役割がなくなってしまうむなしさが生活全般に反映されてしまう状況は誰にでも起こる。ましてや一人になったらやる気がなくなってしまうのは想像しやすいと思うんです」

 おざわさんは名古屋市出身。父から聞いたシベリア抑留の話を漫画にした『凍(こお)りの掌(て)』と、母が体験した名古屋空襲を描いた『あとかたの街』で、二〇一五年に日本漫画家協会賞コミック部門大賞を受賞した。

 「私はたまたま親から聞いてある程度は知ってたんですけど、シベリア抑留は本当に知らない人が多くて。このまま消えてしまうのではないかという気持ちが強かった。あの作品を描いて、親やおじさん、おじいさんがシベリアに行ってたけど全く話を聞いてない、読んで初めてこういうことだと知ったって、よく聞きます。名古屋空襲については私も描く前は詳しくなかった。学校でも全然教えてないですし、夏にニュースでちょっとやるぐらい。標的にされやすい場所だったのを、名古屋に住んでても全然知らない人が多いんです」

 この日、おざわさんは、さわやかな水色の色調の着物を、半襟や帯とのコーディネートも見事に、美しく着こなしていた。取材後、見とれていると「たまたまなんですけど…」と、「傘」の絵柄が入った袖を広げて見せてくれた。 (岩岡千景)

 

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