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【土曜訪問】

レンズで描く被葬者 40年以上も古墳を空撮 梅原章一さん(写真家)

写真

 各地の代表的古墳の航空写真集『古墳空中探訪 列島編』『同 奈良編』(新泉社)が好調だ。四月の刊行から一カ月半で初版各二千五百部が完売、増刷された。著者は四十年以上、空から古墳を撮り続ける写真家梅原章一さん(72)。担当編集者も「意外な売れ行き」と驚く人気の理由は、世の中ちょっぴり古墳ブームであることだけではないだろう。希有(けう)な経歴の持ち主が待つ大阪市内のヘリ運航会社に足を運んでみた。

 「最初は危ないなあ、怖いなあと思ったけど、パイロットとコミュニケーションが取りやすいし小回りも利く。この作業にはもってこい」。近年相棒とする米国製二人乗りヘリ「ロビンソン式R22型」を前に、梅原さんは快活に笑った。一人の力で格納庫から引き出せる小型機。性能的に、一回の飛行は最高二時間半だが「関西なら問題ないし、今はそれぐらいがちょうどええねん。体力的にも」。

 一九七〇年代から、こうしたヘリや軽飛行機を自費でチャーターし、全国の古代王墓にレンズを向けてきた。二冊はその集大成。解説文を寄せた考古学者今尾文昭さんの言葉を借りると「対象物にモノを語らせる撮り方」が貫かれている。

 まずは所在地の地理的環境を重視。たとえば五色塚古墳(兵庫)は明石海峡ににらみを利かせるような位置にあるのが一目で分かる構図で、海上交通の要衝をおさえた被葬者像を表現した。一方、卑弥呼との関係が指摘される箸墓古墳(奈良)などに朝もやがかかる幻想的な写真、小区画で埋まる現代の墓地と隣接する前方後円墳との対比で「力」の差を描いた写真など芸術性、メッセージ性に富む作品も。多彩な切り口だ。

 無理はせず、見通し(視程)が五十キロ以上なければシャッターを切らない。季節を選ぶ構図は、撮影条件が整わず「また来年」となることも少なくなかった。「天気は下り坂から回復し、ピークになる少し前がいい。安定してしまうと風が止まり視程が悪くなる。飛んでも引き返すような失敗、気象面でようしましたわ。授業料もだいぶ払った」と若いころを振り返る。

 兵庫県伊丹市出身。同居していた親戚が写真好きで、自宅には押し入れを改造した暗室があった。もろに影響を受け、カメラマンを志す。写真専門学校で技量を磨き、スタジオ勤務を経て広告・広報写真などを手がける大阪の会社に入った。

 好景気で航空写真の需要が多く、出社初日の仕事は名古屋周辺の工場などの空撮だった。依頼に備え八尾空港(大阪府八尾市)で連日待機し、空に上がると見えたのが、古市古墳群と百舌鳥(もず)古墳群を構成する巨大古墳の数々。その一つ、大山(だいせん)古墳は全長約五百メートルにも及ぶ。「人生八十年、九十年とはいかない時代、長い時間かけて造らせるわけでしょ。古代権力者のパワーにひかれ仕事ついでにパチャパチャ撮り始めたものの当然、使っていいフィルムに限りがある。自由に撮りたくて二年で辞めました」

 幸い、フリーでも企業や行政からの仕事が途切れず資金を稼げた。関連本を読みあさって知識を深め、より良い構図を探った。やがて出版社の目に留まり、古代遺跡を都道府県ごとに紹介するシリーズ本などで写真を任されるように。考古学の旗手の一人だった故森浩一さんをはじめ一線の研究者とも交流し、日中の国際調査団に加わったり、博物館の図録写真を一手に引き受けたりと、空撮以外にも活動の幅を広げた。

 特に古代鏡は国内で四百枚以上、中国で二千枚以上と膨大な撮影実績を誇る。三角縁神獣鏡が国内最多の三十三面出土した奈良県天理市の古墳を徹底解剖する『黒塚古墳の研究』(八木書店)が近く出るが、遺物の写真はすべて梅原さんが担当した。文化財関係者の信頼は厚く、作品は教科書や一般向けの本にも多数採用。つい最近、英国の大英博物館からも展示への協力依頼を受けた。今は、次の構想を練りつつ充電中だ。「やりたいことがあんねん。一つは奈良盆地の大和(おおやまと)古墳群を雲の間からのぞく感じのイメージ的な写真。あそこ、いいよね。土木量の大きさがよう分かる。もう少しお金ためてから、やけどな」 (谷村卓哉)

 

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