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【土曜訪問】

「心」になっていく言葉 意志持つロボット描いた作品 遺産賞・楳図かずおさん(漫画家)

「まことちゃん」ポーズで

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 日本漫画界の今年のニュースの一つは、楳図かずおさん(82)が欧州最大規模の漫画の祭典、フランスの第四十五回アングレーム国際漫画祭で遺産賞を獲得したことだった。「永久に残すべき遺産」と認められた受賞作『わたしは真悟』は、どのように生まれたのか。

 東京・吉祥寺の街を一望できるマンションにある仕事場。「とてもうれしかったですね。漫画を九番目の芸術と呼んでいるフランスで賞を頂けるとは」。赤白ボーダーのシャツ姿の楳図さんは、一月の受賞をこう振り返った。

 遺産賞は、水木しげるさん、上村一夫さん(いずれも故人)に次ぎ日本人で三人目の快挙。ホラー作品をはじめ多数のヒット作がある楳図さんだが、『漂流教室』などで小学館漫画賞を取って以来、実に四十三年ぶり二度目の漫画賞。「もう賞には縁がないと思っていました」

 『わたしは真悟』は一九八二〜八六年に連載された。小学六年の主人公さとるとまりんは、大人に初恋を引き裂かれそうになり、結婚を決意。さとるの父が勤める工場の産業用ロボットにどうすれば子どもが作れるかと尋ねる。

 表示された答えは「333ノ テッペンカラ トビウツレ」だった。二人が高さ三百三十三メートルの東京タワーに登り、それを実行した瞬間、ロボットは自我を獲得。さらに「悟(さとる)」「真鈴(まりん)」から一字ずつ取って、自らを「真悟」と命名する。まるでインターネットのように世界中のコンピューターとつながって膨大な情報を手に入れ、さらに医療機器を通じて人間の脳にまで接続。「両親」のために行動する真悟は、次々と奇跡を起こしていく。

 「最初は単純にロボットを描こう、と思ったんです。『まことちゃん』で子どものアホな世界をいっぱい描いたので、正反対をやろうと」。だが、そこからの発想が独特だ。「では意識のない物にどうすれば意識を与えられ、賢くなるのか。それが分からないとロボットは描けないと思った。心って何なのか、という疑問ですね」。導き出したのは「言葉の中に全てがある」だった。「情報量が増えていくと、あるとき心になるのではないか」

 人工知能(AI)の研究が進む現状を、楳図さんは「人間の拡張」ととらえる。「産業用ロボットは手、コンピューターは頭脳でしょう。ただ機械を発展させているのではなく、人間が次の段階の人間になる、ということなんです」。確かに、AIが将棋でプロ棋士に勝つ時代だが、人間の側もAIを取り入れて戦法を進化させている。

 さとるとまりんは、ロボットに言葉を教え、ロボットの言葉を信じて東京タワーから飛び降りる。純粋な子どもの行動こそが、奇跡を生む。子どもと大人がいかに異なる存在かが本作の大きなテーマだ。「大人は一つのことのプロフェッショナル。子どもは無力だが、何者にもなれる可能性がある。大人と子ども、両方を足せばいいんです」

 一時間半の取材の間、人類史からフェイクニュースまで、話題が尽きることはなかった。カメラを向ければ『まことちゃん』の「グワシ」のイラストを手に、笑顔でポーズを披露。鬼才と評される漫画家には、少年のように自由な感性と、プロらしい豊富なサービス精神が同居していた。 (谷岡聖史)

 

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