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【土曜訪問】

画業66年夢を自由に 名作選発刊など再評価進む わたなべまさこさん(漫画家)

わたなべまさこさん

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 わたなべまさこさん(89)は<現役最高齢の漫画家>だ。一九五二年のデビュー以来、愛らしい少女漫画やサスペンス、大人向けの妖艶な短編など、多彩な作品で読者を楽しませてきた。六十六年の画業を振り返る単行本『総特集 わたなべまさこ』(河出書房新社)を手に、ペンを握り続ける「魔法使い」を訪ねた。

 東京都内の自宅近くのラウンジ。総特集をめくりながら「幸せな本です。自分でも忘れている作品の方が多いくらいで、懐かしくなりました」とほほ笑んだ。

 総特集は豊富なカラーイラストを収録。巻末のリストには、少女漫画の華やかな世界とサスペンスを融合させた『ガラスの城』や、中国古典を漫画化した『金瓶梅(きんぺいばい)』をはじめ、長短編合わせて五百以上のタイトルが並ぶ。「一つ描き終わると、次が頭に浮かぶ。自分でもこんなに時が過ぎたのかとびっくりしています」

 子どものころから絵が好きで、魔女にあこがれていた。漫画との出会いは、長男を妊娠していた二十三歳の時。手塚治虫が描く映画のような世界に衝撃を受けて「自分も描いてみたい」とペンを走らせた。百二十ページを手探りで完成させた『小公子』を貸本専門の出版社に持ち込みデビュー。以後、次々と描いていった。

 漫画家になった理由の一つは「子育てしながらできる」から。「子育てと仕事は一緒でした。育児の過程が物語にも組み込まれています」。授乳中に寝ると子どもをつぶしてしまうのではと不安になる。だから眠くならないように物語を想像し、漫画の下書きを書いた。やわらかさとはかなさをたたえた丸みのある子どもの絵、愛情に満ちた母親の描写には、母としての経験がにじむようだ。

 六三年に少女向けの週刊誌『週刊マーガレット』(集英社)が創刊されると看板作家の一人として活躍。約二年連載した『ガラスの城』が小学館漫画賞を受けるなど人気を博した。

 漫画は自由に世界をつくれる「魔法」だと語る。「私が漫画を描き始めたころ、戦後十年近くたっても物がなかったんですね」。冷蔵庫も洗濯機もない。「今の皆さんが想像できないほど何もない時代」だった。けれど絵なら何でもできる。「眠る時はせんべい布団じゃなく、天蓋(てんがい)付きのベッドとふかふかの羽根布団。バラは一輪ではなくダースで飾る。私の欲望です。米国の雑誌を参考に、夢見ているままを描きました」。ドラマチックな物語を彩る、おしゃれな洋館、レースのドレス、かれんな花々…。想像で紡いだまばゆい世界は少女らの心をつかんだ。

 七〇年代後半からは活躍の場を芸能週刊誌やレディースコミックに移し、絵柄はぐっと官能的に。『悪女シリーズ』『金瓶梅』などで男女の愛憎や性愛を描き、人の業に迫った。

 少女漫画誌で活躍した六〇年代の作品の入手は現在難しいが、一部を収録した『わたなべまさこ名作セレクション』(河出書房新社)が今年九月に刊行。読者を魅了した魔法の一端に触れられるようになったほか、八歳の少女が無邪気に殺人を重ねるホラー作品『聖ロザリンド』(七三年)も、宝島社から昨年復刊。旧作の再評価が進む。

 ジャンルや流行にとらわれず、自身の興味を貫いた創作活動。「読者の一歩先を行くように。いろんな分野に挑戦してみるのが大切だし、面白いと思います」と振り返る。今も意欲は旺盛で、アイデアノートには漫画のほか、制作中の絵本の構想がびっしり。

 ペンを握り続けてきた右手を見せていただいた。中指には、魔法をかけ続けてきた証しの大きなペンだこ。長編を終えると真っ赤に腫れて痛んだと懐かしむ。「漫画を描くことに飽きることはなかったし、生まれ変わっても漫画家になりたい。もちろん、これからも描くので楽しみにしていてください」

  (谷口大河)

 

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