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【土曜訪問】

高齢者排除してない? 「キレる老人」の実相に迫る 川合伸幸さん(名古屋大大学院准教授)

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 高齢者は「キレ」やすくなっているのか…? そんな問いに応える『凶暴老人』(小学館新書)を、名古屋大大学院情報学研究科准教授の川合伸幸さん(52)が出した。「キレる老人」の実相を、さまざまな情報や認知科学の知見から解き明かしている。高齢社会のありようにつぶてを投げるその主張に共感を覚え、名古屋市千種区にある同大の研究室を訪ねた。

 川合さんは同著でまず、「キレる高齢者は増えているのか」を、数字の上から検証する。平成二十九年版の犯罪白書によると、六十五歳以上の高齢者の検挙者数は約四万七千人で年齢層別にみると最も多く全体の20・8%。二十年前に比べると約三・七倍に。鉄道係員に対する暴力行為も六十代以上が23・3%と多い…。こうした数値からは、高齢者に「凶暴」なイメージを抱きがちだ。しかし「まあ人を殺すとか傷つけるようなことは、なかなかないと思うので」と、川合さんは穏やかな口調で語り始めた。

 実は、人口比でみれば、検挙者の割合が最も大きいのは二十代で、高齢者は一番小さい。高齢者の検挙者数の増加は<日本全体の人口に占めるバランスの変化を反映しているだけ>にすぎないのだ。しかも、高齢受刑者の構成比で殺人は2・4%と凶悪な犯罪は決して多くない。「弱い人をたたくと気持ちがいいということはあり『高齢者はキレて、けしからん』と書くと若い人は賛成するかもしれませんが、いろんなデータをみると、そうは書けませんでした」

 とはいえ、高齢者の「暴行」は年々増加。その背景には、脳の前頭葉の機能低下がある。前頭葉の中でも思考や判断、計画、抑制など人間らしい合理的な判断をする「前頭連合野」という領域は加齢とともに衰える。それにより高齢者は怒りを抑制しにくくなると考えられるという。

 だが、暴行は、人にけがを負わせる「傷害」に至らない段階だ。川合さんは、こうした実相を丁寧に説明し、高齢者の暴行をことさら問題視する社会のありように疑問を投げ掛ける。「人には『よそ者』を排除するような心の働きがあるんですけど、高齢者が人口の四分の一以上になり『一大勢力』になって、そういう排除の気持ちが強くなってきたのでは。『高齢ドライバー』『前期・後期高齢者』って名前を付けていってますよね。それが区別を助長している。その背景に『われわれとは別の者』という意識があるんじゃないかなと思うんです」

 この「よそ者」意識は、二〇一五年に出した『ヒトの本性』(講談社現代新書)でも掘り下げた。私たちは、なかば無意識のうちに「身内」と「よそ者」という区別をしている。身内の中の誰かを突然排除すること、つまり、現代のいじめにも通じる「仲間外れ」は、アテネの陶片追放に英語の語源があり、すでに古代からあった。また、資源を取り合う状況で人はよそ者を攻撃し、仲間外れをする性質があるという。「頭で考えながらやっているわけではないけれど、医療費や社会保障費の拡大に伴う増税など資源を取られている感じが、高齢者に対する嫌なムードと『暴力的でいかん』と責めるような社会の風潮を招いているのでは」

 その性質にあらがうために、大切なことは…? 「教育をちゃんとしないといけないのでは。私たちが子どものころにあった高齢者を敬う教育を、今は聞かない。私たちはいろんな情報に流される。『いつまで生きてるつもりだ』といった政治家発言や報道がまかり通ってしまうと、みんなそう思ってしまう」。「大人なら、事実を冷静に客観視する『教養』でしょうか」と尋ねると、うなずいた。

 専攻する「認知科学」は「心理学とあまり変わりないんですけど、脳をコンピューターに置き換え、情報が入ってきていろいろ処理され、出力や運動をすると考えて、心の働きを探るんです」。人と動物を比較することも多い。研究室のドアには愛嬌(あいきょう)あるオランウータンのポスターが貼られ、机の隅にはゴリラやチンパンジーなどのぬいぐるみが座っていた。最後にこの仲間たちと「一緒に撮影を」とお願いすると、快く応じてくれた。 (岩岡千景)

 

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