東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 文化 > 土曜訪問一覧 > 記事

ここから本文

【土曜訪問】

おもしろがる、全力で 週刊誌の長期連載が節目 東海林さだおさん(漫画家)

写真

 傘寿を超えてなお、週刊連載を精力的にこなす漫画家の東海林さだおさん(81)。昨年「タンマ君」(週刊文春)が連載五十周年を迎え、食をテーマにつづるエッセー「あれも食いたいこれも食いたい」(週刊朝日)は千五百回を超えた。ユーモアあふれる作品を絶えず生み出す力は、どこから湧いてくるのだろう。

 「目まぐるしいですよ。締め切りの翌日には次のテーマを考える。でも好きな仕事だからやめたいと思わないのは、幸せですよね」。五十年近く仕事場をかまえている東京・西荻窪のマンション。ぴんと伸びた背筋に少年のような笑顔で語り始めた。机周りの棚には資料がぎっしり詰まり、猫の写真や気になった書評の切り抜きが貼ってある。

 この机で、平日の昼に八時間ほど仕事をする。「健康的でしょ」。二〇一五年に肝臓がんが見つかり入院、手術を経て復帰。「九十歳までは漫画家をやっていたい」と言い切る。数々の長寿連載も「二、三年と思ってたけど気付けば長くなって」と気負いはない。「毎回、最善を尽くして読者に喜んでもらいたい。自分の力を百としたら、百三くらい出す。ここで二百なんて言うと、毎週だと疲れちゃいますけどね」

 読者に喜ばれる醍醐味(だいごみ)を知ったのは、友人の影響で漫画を描き始めた小学校高学年のころだ。漫画と少年小説を載せた「学級新聞」をガリ版で刷ったり、授業中にこっそり先生の似顔絵を回したり。終戦後の娯楽が少ない時代。「みんな本当に大喜びしてくれた。あの時の気持ちが原点かもしれません」と懐かしむ。

 人一倍、好奇心の強い子どもでもあった。庭にアリジゴクの穴を見つけたある日。「どうやってアリが落ちるか知りたくて、縁側に寝そべって半日くらいずっと見てたんです」。結果、観察中にアリは一匹も通らず。「このアリジゴク大丈夫か、やっていけるのかって心配になっちゃった」

 大ベテランの漫画家となった今も、その好奇心は変わらない。つい最近は新宿の百貨店で、宝くじ売り場を観察。「みんな案外、野菜か何かみたいに淡々と買っていくんですよね。けっこう若い男の人が多くて意外だった」。三十分くらい眺めていたそうだ。

 日常でふと思い付いたアイデアや気になった話題はすべて「ネタ帳」に記録。ケント紙をとじた特注のノートで、六百冊を超えた。最新の一冊を開くと日産のカルロス・ゴーン前会長、NHK番組の人気キャラクター「チコちゃん」ら今をときめく面々の似顔絵が。かと思えばかわいいモグラやアリ、やけに写実的な肉の切り身が描いてあったりする。「コメ作りに例えると稲刈りまで済んで、後は脱穀するだけの状態です」。そのままでも漫画のようだ。

 こうした観察と探求から作品は生まれる。平社員サラリーマンの奮闘を描く「タンマ君」。カツカレーの理想の盛り付け方を考察したり、バナナの皮が本当にすべるかマンションの廊下で実験したり、目の付け所に思わず笑ってしまうエッセー。「見逃してたけど言われてみれば気になる、という視点を読者は喜ぶんじゃないかと思って。まあ、一体この人は何をやってるんだと思われてるかもしれませんけど…」

 その視点こそがユーモア、と考える。「ユーモアっていうのはどんなこともおもしろがる精神であり、価値観。ブームになるようなお笑いはその時おかしいから笑ってるだけで、根性がすわったユーモアじゃないと思う」。目に鋭さが宿った。「人間の理想を“真・善・美”なんて言うけど、ぼくは“真・善・美・ユーモア”だと思ってます」

 取材時、食べ物エッセーのファンだと伝えると「あれはルポ漫画の延長で、おまけみたいなものだったんです。肉屋さんのコロッケのような。そっちの方も人気が出たりしてね」。食に例えて笑い、おもむろに考え始めた。「そもそも何でコロッケを売るんだろう。それほど肉を使わないし、わざわざジャガイモを仕入れてまで…。今度聞いてみようか」。好奇心とユーモアはとどまるところを知らない。 (川原田喜子)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報