東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 文化 > 考える広場 > 記事

ここから本文

【考える広場】

新入生の君たちへ 寄り道のススメ

 各学校で新年度が始まった。楽しい学園生活も、最近は少し世知辛いようだ。大学生は講義に皆勤、就職活動に不利として海外留学も伸び悩む。でも、一本道はちょっと窮屈。留学、休学、フリーター。寄り道を体験した先輩たちが教える「外れる」楽しさとは。

◆膨らみのある生活を 作家・石田衣良さん

石田衣良さん

写真

 大学を卒業した一九八三年はフリーターが流行し始めた年でした。僕も正直、会社に入ってもうまくいかないだろうと思い、とりあえず何年か世の中を見てやろうとアルバイト生活に入りました。

 フリーターは三年間。面白かったですよ。一方で、せつない気分もあって、両方。いろんなアルバイトを次々と楽しんでやりながら、でも周りの友達はだんだんといい仕事をしていく。じゃあ自分は何をやれるんだろうと思いながら生きていた。そのころの気持ちや感情、経験というものが、その後の人生の基準になりました。僕のデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』シリーズも、社会の下の方から世の中を見ていた感覚がベースになっています。

 最近の若い子と話していると、失敗や損が嫌だから新しいことに手を出さない方に行ってしまう。正社員かどうかで生涯賃金が二億円も違う時代だから大変なのは分かりますよ。でも、かつての僕なら「二億円ぐらい捨てればいい」と思うでしょうね。だって自分の人生だから。

 人生って、あらかじめ全部先読みしようとすると途端につらくなる。この会社で勤め上げれば生涯賃金数億円という数字で就職を決めて淡々と生きていけるほど甘くはない。そういう小手先の計算には必ずしっぺ返しが来ますよ。

 若いときはあせらず、ゆっくり、逆に遠回りしてほしい。エントリーシートに書く用にボランティアを頑張るとか海外に行くとかのアリバイづくりはやめて、もう少し自分の心に素直になったらいいんじゃないですか。鉄道が好きなら電車に乗ればいいし、ラーメン好きなら食べ歩きすればいい。本当に楽しめること、夢中になれることを一つ突き詰め、膨らみのある大学生活を送ってほしいです。

 最近、大学生の半分が読書時間ゼロという調査結果が出ました。日本が貧しくなったということでしょうね。昔は大学生の終身雇用が約束され、そのときに必要な教養として本を読んだ。その保証が崩れた時代、見返りがないから本なんて読まないというわけです。でもね、どんな企画会議でも面白いアイデアを出す人は皆、たくさん本を読んでいます。そこで手を抜いてしまうと、自分の成長を抑えることになってしまう。本だけは読んでほしいな。

 (聞き手・大森雅弥)

 <いしだ・いら> 1960年、東京都生まれ。『4TEEN』で直木賞。『北斗 ある殺人者の回心』で中央公論文芸賞。今月から会員制のオンラインサロン「石田衣良のブックサロン」を開始。

◆留学体験 人生変えた タレント・アーティスト・IMALUさん

IMALUさん

写真

 中学卒業後、カナダのブリティッシュコロンビア州の高校に留学しました。もともと洋楽や洋画が好きなのが、一番のきっかけです。

 よく洋画に出てくるハイスクールライフに憧れていました。大きいファイルを抱えて、ロッカーをかちゃかちゃ開けて。ロッカー前で友達と待ち合わせをしたり、彼氏といちゃいちゃしたり。卒業式の日に帽子を投げますよね。それを全部やるのが夢でした。

 最初はホームシックにもかかりましたが、「とにかく友達づくりだ」と、必死になって頑張りました。現地の子たちにとって留学生は珍しがられません。だからまず、話しかけることから始めました。ペンを持っているけど、持っていないふりして、「貸して」「オッケー」「サンキュー」という会話から。

 だんだん英語にも慣れていき、年上の彼氏ができたり、ミュージカル部に所属したりして、卒業間近までやりたいことばかりやっていました。でもその中で、留学前は海外にしか興味のなかった自分が、だんだん日本の良さに気づかされて、日本とカナダの両方の良い部分を吸収できたと思います。

 仕事をするようになって、今考えれば留学中の三年間は好きなことばかりして、楽な生活だったと思います。でも、私にとって留学は、「寄り道」というより「夢」「憧れ」でした。あの経験がなければ、私は全く違った人間になっていたと思います。MTV(音楽専門チャンネル)に出演するアーティストやアカデミー賞アーティストのスピーチを見ていると、数分という短い時間で、メッセージ性の強い意見を、はっきりと言います。私は、そういう人にとても憧れていました。

 例えば授業で「君はどう思う?」と聞かれると、日本ではクラスで一つの意見をまとめたりしますよね。でもカナダの生徒は個々に自分の意見がありました。はっきり「私はこう思います」と言うことをカナダで学んで、今でも大事にしています。

 もし留学を考えている人がいるなら、百二十パーセント行ったほうがいいと思います。中には、親に無理やり留学させられている子もいました。そういう子は、たいてい卒業前に退学して帰国してしまっていましたね。だから、自分が行きたいと思うなら、絶対に行くべきです。

 (聞き手・秋田佐和子)

 <いまる> 1989年、東京都生まれ。帰国後、ファッション誌でモデルデビューし、テレビや雑誌で幅広く活躍。音楽番組「BREAK OUT」(テレビ朝日系)にレギュラー出演中。

◆休学 成長に役立てて 東大と慶大院を休学・喜多恒介さん

喜多恒介さん

写真

 東京大の学部で二年間休学し、慶応大大学院で一年間休学しています。学業から離れ、学生の就職支援をしたり、国の留学促進プロジェクトに協力したりしました。医療分野などの人材教育・紹介の会社もつくり、その収入で生活しています。

 休学は、目的意識を持っていれば必ず成功します。目標があれば、何をすればいいか、どんなチャンスをつかめばいいかが明確になるので、確実な成長が見込めます。逆に、強い動機がなく休学すると、ぼんやりした範囲でしか学びがない。大学は休んでいいけれど、「自分」は休んではいけないのです。

 昔はストレートで大学を卒業し大企業に入ることで、安定した幸せを得ることができました。しかし現代は「地図のない時代」。この先、人工知能に職を奪われるかもしれないし、寿命が格段に延びるかもしれない。将来が見えない現代をどう歩むべきか。「心のコンパス」を探す機会として、休学が求められています。

 上の世代には休学に否定的なイメージもあります。休学を反対されたら、自分が人生をどう送りたいのか説明しましょう。本気度を伝えれば、親もきっと変わります。以前は公務員を勧めていた僕の親も、最近では「私も起業しようかな」なんて言っています。

 学生の中に「休学は就活で不利になる」という誤解があります。キャリア支援などで、一年に約百人の企業の人事担当者と話しますが、むしろ有利になると感じます。休学すれば、社会経験や自分の軸を持って、魅力的な人材になれる。そうした能力を獲得するのに、時間はかかっても問題ではないのです。

 休学者はここ数年で急増しています。「大学では物足りない」と考える人が増えているのでしょう。有意義な就労体験を紹介してくれないし、講義形式で仕事を説明されてもぴんとこない。大学という存在が、機能不全になっていると言えます。

 東大では休学に支援金が出始め、慶大などでは休学費用が下がりました。休学奨励の動きはありますが、その間に多額の学費を払わせる大学も多い。学生の障害にならないでほしい。

 休学して周りから批判も受けましたが、僕は少しも後悔していません。惑わされず自分の人生を選び抜いてください。

 (聞き手・中川紘希)

 <きた・こうすけ> 1989年、埼玉県出身。東京大卒。慶応大大学院政策・メディア研究科2年(休学中)。株式会社キタイエ代表取締役。一般社団法人全国学生連携機構理事。2015年に「休学・留年の会」を主催。

 <海外留学の状況> 文部科学省によると、2013年に海外の大学などに留学した日本人は5万5350人。集計方法が変わったため過去との比較はできないが、留学生は04年をピークに11年まで減少が続き、12年に増加に転じた。留学が伸び悩む理由の一つに、欧米に留学した場合、6月ごろに帰国することになり、就職に不利であることが挙げられる。一方で、近年は学位取得などを目的としない短期の留学が増えているという。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報



ピックアップ
Recommended by