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【考える広場】

子育て支援の財源、誰が負担? 上坂修子論説委員が聞く

 少子高齢化への対応策として、小泉進次郎氏ら自民党の若手が提案した「こども保険」構想が注目を集めています。これをサポートする形で、権丈善一慶応大商学部教授は同党特命委員会で公的年金、医療保険、介護保険の三つの制度から拠出する「子育て支援連帯基金」創設の話をしました。子育て支援策の財源確保はどうあるべきか考えました。

◆社会みんなで支える 慶応大商学部教授・権丈善一さん

権丈善一さん

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 上坂 年金、医療、介護という高齢期に関わる社会保障が専門の権丈さんが子育て支援のための基金を創るという新構想を提案されたことに驚きました。

 権丈 だって、年金、医療、介護政策というのは、日夜、少子高齢化問題との格闘ですよ。例えば、年金の財政検証が五年に一度行われています。そこで試算される将来の給付額は、出生率、つまりは将来の労働力の数と賃金の水準、要するに労働力の質によって決まります。こうした関係は、医療、介護保険も同じです。

 公的な年金、医療、介護という三つの制度は、自分の高齢期にずしんと重く集中する支出を若いうちから負担しておき、生涯の消費支出を平準化するという役割を果たしています。そうしたことは老齢年金だったら分かりやすいんですけど、医療でも六十五歳以上の人たちが医療費の六割ほどを使っていますし、介護だと98%を六十五歳以上の人が使っています。医療、介護、年金みんな同じですね。

 上坂 「子どもが必要な保育・教育を受けられないリスクを社会全体で支える」という小泉氏のこども保険の理念には大いに賛同していますが、課題も多いと感じていました。権丈さんの案の方が理解が得られやすいと思います。

 権丈 このご時世に財源調達の話を盛り上がらせたのは大したものですね。こども保険という賛否両論で白熱するネーミングが良かったんだと思います。みんなで大いに明るくアイデアを出し合えばいいと思う。

 彼ら若い人たちが年金保険料に上乗せして子ども保険をと提案していたので、この国最大の国難に立ち向かう大役を、年金ばかりに任せないで、医療や介護も加えてほしいんだけどと、自民党特命委で話をしてきました。年金にだけ良い格好させるわけにもいかないでしょう。それに高齢者からは自分たちも参加して、この国の未来のために貢献したいという声もある。

 上坂 小泉氏も「非常に意義のある提言」と言っていました。権丈さんの新構想は「少子化対策を進める→将来の給付水準が高まる」とした点が説得力があります。

 権丈 僕は説得力を高めるためにそう言ったのではなくて(笑)、単なる制度上の事実を言っただけ。構想自体は簡単な話で、公的年金保険、公的医療、公的介護という、主に人の生涯の高齢期の支出を社会保険の手段で賄っている制度から、自らの制度における持続可能性、将来の給付水準を高めるために子育て支援基金に拠出し、この基金がこども子育て制度を支えるという話です。

 よく、子育て支援は、本来、税でやるべきだという声もあるけど、「本来」とか「そもそも」に続く話で、世の中、役に立った話は聞いたことがない。

 上坂 加えて雇用保険も絡んでくるのですね。

 権丈 仕事と家庭の両立支援を行っている雇用保険とのバランスと連動をはかりながら進めた方がいいとも思います。二〇一三年の社会保障制度改革国民会議の報告書には「企業における両立支援の取り組みと子育て支援の充実は車の両輪であり両者のバランスと連動を担保する」必要があると書いてあるけどその通りだと思うんですよね。

 ついでに言うと、報告書には「切れ目なく全世代を対象とする社会保障への転換を目指すべきである。その際、全世代型の社会保障への転換は、世代間の財源の取り合いをするのではなく、それぞれ必要な財源を確保することによって達成を図っていく必要がある」と、とてもまともなことも書いてあります。

 上坂 高齢者と若年者の「世代間対立」が激しくなっているようで危惧しています。

 権丈 子育て支援の財源というとなぜか多くの人が高齢者の社会保障を削って持ってこいと言うのだけど、別にこの国の一人一人の高齢者が他の先進国と比べてゴージャスな給付を受けているわけではないですから。

 医療、介護、年金の給付が増えてきたのは、受給者である高齢者の数が増えてきたからだし、これからも増え続けます。日本は人類未到の高齢社会のトップを猛スピードで走っているのだから、仕方ないですよ。医療、介護、年金の効率化を図ってサービスの質を上げる努力は絶対に必要。でもこれを減らして子育て支援へということをやっていたら、自分が年をとった時に自分や家族が結構、つらい目にあいますよ。

 高齢者だ、勤労者だ、若者がとか言うのは、今時、あんまりかっこいい話ではないと思います。みんな年をとって高齢者になるのだから。自分が年をとっても、悲しい余生とならなくてもすむように、今の若い人たちと高齢者が話し合いながら折り合いをつけていった方が、良いと思うんですけどね。

 上坂 保険料の負担増につながるため、企業側は難色を示すと思います。

 権丈 経済同友会(同友会)に先月、呼ばれた時「合成の誤謬(ごびゅう)」の話をしました。個々には妥当であるとしても、全体を合計すると不都合が生じるという話です。かつては、個別資本にとって都合の良い低賃金労働を推し進めていけば、労働力が再生産できなくなって不都合なことが生じるから、個々の資本が反対しても総資本の立場から労働者保護を進めるべきだという「大河内理論」というのがありました。もっと言えば、十九世紀末のビスマルクは、この体制を守るために第一の恩恵を被っている経営者も責任を果たすべしと、企業に負担を求めた。すごい政治家ですね。

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 上坂 最近の経済界の主張の多くは短期的な利潤を追求するためだけのものと感じます。

 権丈 同友会とか経団連というのが、個々の企業の要望である短期的な利潤極大化を求める市場の声に拡声器をつけるだけの団体だったら、民主主義の力で市場の力を抑えていくしかないと思います。でも、経済界の大きな団体はそういう存在ではなく、大所高所、長期的な観点から合成の誤謬を調整・解決する役割を果たしてくれるのが存在意義でしょう。

 同友会が昨秋に出した「未来への希望を拓(ひら)く税制改革」などは、そうした観点からの提言だと高く評価しています。

 それに公的年金保険、医療保険、介護保険の存在理由を今さら論じる必要はないとも思います。これらの制度はこの国の人たち、労働者が尊厳をもって生涯を全うするために重要です。そしてこうした制度の将来の給付額、より充実したサービスは積極的な子育て支援によって高まる。だから日本人全員で連帯して支えようという話です。

 上坂 日本の少子化は危機的な状況にもかかわらず、対策は進みません。

 権丈 一九八九年の出生率が過去最低となった翌年に「一・五七ショック」とネーミングして、少子化対策をやろうとした。そうしたらバブルが崩壊して、何もできなくなった。これは不幸なわけですよ。

 <けんじょう・よしかず> 1962年、福岡県生まれ。慶応大大学院商学研究科博士課程修了後、同大助手、助教授を経て教授。専門は社会保障、経済政策。社会保障制度改革国民会議委員などを歴任。主な著書は『ちょっと気になる社会保障 増補版』『ちょっと気になる医療と介護』『再分配政策の政治経済学1〜7』。

 <子育て支援連帯基金> 子育て支援の新たな財源確保策として小泉進次郎氏ら自民党の若手議員が3月に「こども保険」創設を提言。公的年金保険料に新たに保険料を上乗せして徴収し、その財源を幼児教育・保育の早期無償化や待機児童の解消に充てる。これに対し権丈教授の案は、年金、医療、介護の三つの制度の保険料に上乗せして財源を捻出し、基金に拠出。基金から子育て支援策に投入する。

 

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