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【考える広場】

「#Me Too」 そして、あなたは?

 性暴力・セクハラの被害を告発する「#Me Too(私も)」運動が世界中に広がっている。しかし、日本では動きが鈍く、事態を軽視する発言も相次ぐ。あなたはどう考え、行動しますか?

 <#Me Too運動> 性暴力・セクハラの被害者への連帯と自らの被害体験を公表する運動。米映画界でのセクハラ行為が明らかになったことがきっかけで始まり、ツイッターなどの会員制交流サイト(SNS)で、検索しやすいよう「#Me Too」を付けて投稿する。欧米では多くの加害者が責任を取って公職を辞任する動きになっているが、日本では告発例は少なく、麻生財務相が事態を軽視する発言をするなど、意識の低さを露呈した。

◆変えるため声上げる 政治アイドル・町田彩夏さん

町田彩夏さん

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 十八歳選挙権に興味を持ったことをきっかけに「政治をもっと身近な話題にしたい!」と、「政治アイドル」として活動しています。テレビ出演などをしながらセクハラや性暴力を中心にツイッターなどのSNSで発信しています。

 昨年末、就職活動中に電通の面接でハラスメント(嫌がらせ)発言をされたことを、「#Me Too」のハッシュタグを付け、ツイッターで発信しました。三万件を超えるリツイート(他人のつぶやきを引用して、自分からも発信すること)があり、大きな反響がありました。

 面接では、電通新入社員だった高橋まつりさんが過労自殺に追い込まれた事件について、役員から「亡くなったことをどう思う?」と聞かれました。別の社員からは「君みたいな容姿がきれいな人がハキハキ意見を言うのが気に入らない」「女を武器にしている」「化粧が濃い」「スカートが短い」とも。

 企業の役員と学生には、明白な上下関係があります。だからパワハラもセクハラも起きる。ツイッターには「今まで怖くて黙っていたけれど、未来の就活生がこんな思いをしないように声を上げます」と書きました。

 慶応大の広告学研究会の学生が集団準強姦(ごうかん)容疑で書類送検されましたが、その前に彼らが主催するミスコンテストに応募して面接を受けたことがあります。「子孫を残すために女性として必要なことは何?」などと執拗(しつよう)に性的な質問をされました。事件が明るみに出た時、ミスコンの面接で私もこんな経験をした、と事前に公言していれば、こうした事件を未然に防げたかも…と後悔しました。

 女性への差別を意識したのは、高校一年。生徒会長に立候補したら「女のくせに会長に立候補するなんて生意気だ」と教員に言われ、自分では変えられない枠組みで差別されるのは理不尽だと思いました。

 ネットは声の大きい人が書きこんだウソが、いつの間にか真実として流通する世界です。だから「それは不適切ですよ」と誰かが言わなきゃいけない。私は「不細工のくせに」と言われたら「容姿と性被害は関係ないですよ」といったように、一つ一つ丁寧に解説します。やりとりを見た被害者の、言葉にできないモヤモヤを解消する一助になれたらと思っています。これからもそんな発信を続けていきます。

 (聞き手・出田阿生)

 <まちだ・あやか> 1995年、千葉県生まれ。慶応大4年。アイドルコンテスト入賞を機に「政治を楽しく語るを日常に」をモットーに活動。ツイッター(@Ayaka_m_y)で発信中。

◆セクハラ罰する法を 社会学者・千田有紀さん

千田有紀さん

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 財務省の福田淳一前次官による「セクハラ発言」で、自分が駆け出しのころの体験を思い出しました。社会学者という肩書の私ですら、研究の関係者から「姉ちゃん」と呼ばれ、執筆する雑誌の関係者からは「俺と付き合えば、売り出してやるよ」と言われました。本当に腹が立ったし、嫌だった。仕事の半分はセクハラ対応だったといっても過言ではありません。

 抗議しても、麻生太郎財務大臣のように「触られてもいないんじゃないの」「だったら男に代えればいい」と言われる。だから何も言えなかった。女性が働くことは、セクハラを我慢することなのかと苦悩しました。

 研究の業績で評価されるのではなく、若さや容姿に言及されることに深く傷つきました。福田氏は「言葉遊び」と表現しましたが、受け手にとっては、仕事をする者の尊厳を傷つけ奪う「凶器」に他なりません。

 日本では海外のように#Me Too運動が広がらないといわれます。でも、今回のテレビ朝日社員による告発は、Me Tooの流れがあったからこそだと思います。伝聞ですが、テレ朝社員の告発の背景には、ジャーナリスト伊藤詩織さんが元TBSワシントン支局長によるレイプ被害を訴えたことがあったといいます。こんな人物が次官にふさわしいのかという義憤や、これ以上被害者を増やしたくないとの思いから、詩織さんの頑張りに触発されたのだとしたら、これもMe Tooです。

 一方で、セクハラに対する法の不備があります。労働政策の専門家が指摘していますが、男女雇用機会均等法を含む日本の法律にはセクハラの禁止規定がありません。セクハラ防止の啓発などを事業主に課しているだけで、加害者を罰し、被害者を救済する規定がないのです。

 また今回、同意を得ない録音データを週刊誌に提供したという批判がありますが、これは人権侵害を明らかにするための「公益通報」です。ところが公益通報者保護法の適用範囲に雇用機会均等法違反は含まれていません。きちんと処分しないことが、セクハラを許す土壌をつくり出します。法改正が必要です。

 労働環境を守り、健全な社会をつくる重要性は、男性であれ女性であれ、否定する人はいないでしょう。今こそ、セクハラは性暴力であり人権侵害だと、日本社会が認識する機会だと思います。

 (聞き手・出田阿生)

 <せんだ・ゆき> 1968年、大阪府生まれ。武蔵大社会学部教授。専門は家族論・フェミニズム論。著書に『日本型近代家族−どこから来てどこへ行くのか』『女性学/男性学』など。

◆「加害者性」誰にでも 精神保健福祉士・社会福祉士・斉藤章佳さん

斉藤章佳さん

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 日本では共通認識になっていませんが、セクハラはれっきとした性暴力です。それを前提にしないと、「ちょっと触っただけ」「単なる言葉遊び」ということになってしまい、加害者の責任が問われないまま、同様の行為が繰り返されるのです。

 性暴力は権力関係の中で発生します。再発を防ぐには、権限を持っている人が自らの加害者性に自覚的になることが重要です。ところが、前財務次官のセクハラ問題もそうですが、加害者性にはなかなか目が向かない。その結果、どう加害行為に責任を取るのかという本質的な議論も深まりません。

 告発された側は大体、社会的な地位を降りるという形で幕引きを図ります。辞めればそれで終わりというわけですが、被害者側は終わらない。被害者記憶は残ります。前財務次官のセクハラ問題でも、彼がどう責任を背負っていくかが問われます。

 加害行為に対する責任の取り方は三つ。一つは再発防止責任。二度と起こさないために対策を取ること。二つ目は説明責任。自分がやったことを正直に話し、加害行為を認めること。最後は謝罪と贖罪(しょくざい)です。

 なぜ日本では被害の告発が少ないのか。責任を追及される側がちゃんとそれを受け止めないからです。告発する側が一番望むのは、加害者が自分のやったことに向き合い、謝罪と再発防止に取り組むこと。それは対話をすることにつながります。しかし、加害者側はそれに抵抗や拒否をして対話になりません。

 そこには日本人男性の対話力の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈しています。実は、DVや性暴力の背景には男性の恐怖という感情がある。自分より弱い存在から反発されたり抵抗されたりすることが怖いんです。それほど男性のアイデンティティーはもろい。幼い頃から「男とはこうあるべきだ」と育てられてきて、恐怖を認めるという教育も訓練も受けていない。

 「性犯罪なんて、自分とは関係ない」と思う男性は多いでしょうが、男性は皆、加害者性を内包しています。条件がそろえば自分も痴漢をするかもしれないと自覚的になることが大事です。ポイントは自分に正直になること。それは自分の弱さを認めオープンにすることです。そうすると人とつながることができます。これは日本の男性が社会の中でより成熟していく上でも大事なポイントではないでしょうか。

 (聞き手・大森雅弥)

 <さいとう・あきよし> 1979年、滋賀県生まれ。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。日本で先駆的に性犯罪再発防止プログラムを実践している。著書に『男が痴漢になる理由』など。

 

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