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【考える広場】

仮想通貨の夢と現実

 仮想通貨。日銀などが発行する「円」とは別の通貨。特定の管理者はおらず、不正の有無を皆で監視しているが、それでも不祥事が相次ぐ。今のところ通貨として使える店や機会は限られ、投機の目的で持っている人が多い。仮想通貨は世の中を変えるのか。それとも…。

 <仮想通貨の監視> 「ブロックチェーン」という技術でインターネット上の仮想通貨の取引履歴を利用者同士が管理する。システム障害や不正に強いという。

 <不祥事> 今年1月、コインチェック(東京)の口座から仮想通貨NEM(ネム)が580億円分流出。2014年には、マウントゴックス(東京)から480億円分のビットコインが流出した。

◆規制厳しすぎぬよう ベンチャー企業経営・藤本真衣さん

藤本真衣さん

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 コインチェック(仮想通貨交換業者大手)で仮想通貨の流出が起きましたが、私の周りでは(二〇一四年に流出事件を起こした業者の)マウントゴックスの時と比べれば、落ち着いた反応が多かったと思います。「仮想通貨ではなく業者の問題」だと。でも一般の方はそうとは言えませんよね。まだ「何か怖い」との不安がぬぐえない。

 この影響もあってか、ベンチャー企業が仮想通貨の事業にチャレンジする際、必要な資金力や人員などのハードルが上がっています。規制の強化で消費者を保護するのは大事だと思いますが、厳しくなりすぎるのはよくない。資金力のある大手ばかりが有利なルールにするのは、避けてほしいと思います。

 先般、世界中から仮想通貨の関係者が集まる「コンセンサス二〇一八」がニューヨークで開かれ、私も行ってきました。多くのベンチャーなどが集まり、中国・韓国勢の勢いを感じる一方、日本の関係者はほとんどいませんでした。「日本人は投機にしか興味がないのか」と聞かれたりしました。日本は仮想通貨の法整備で世界の先頭を走っていたのに、残念な状況です。

 この業界の日本人で世界的に有名なのは結局、投資家ばかりなんですよね。日本発の具体的な関連プロジェクトの名前が出てこない。私は今、仮想通貨や(中核技術の)ブロックチェーンの事業について、海外と日本を橋渡しをする仕事をやっています。海外企業がアプリ開発などのプロジェクトを日本で展開する支援が主で、逆はあまりないのが正直なところです。

 最近、仮想通貨やブロックチェーンに特化した人材紹介の会社を設立しました。世界ではトップ級の人材が集まる業界ですが、日本では採用に苦労している現状だからです。ただイベントを開くとエンジニアは大手企業の研究職が参加し、金融ではゴールドマン・サックスなど外資系大手の人が集まりました。一部では、この業界に注目が集まってきているのを感じました。

 私が一一年に仮想通貨のアピールを始めたときは「詐欺師」扱いされたことさえありましたが、状況は大きく変わりつつあります。仮想通貨が世界から消えることは、もはやないでしょう。一般の方も「よく分からない」で立ち止まらず、時代の流れについていくために一度勉強してみることを勧めています。

 (聞き手・渥美龍太)

 <ふじもと・まい> 1985年、兵庫県生まれ。2014年に、仮想通貨ビジネスへの助言などを担うグラコネを設立、業界での人脈は広い。18年には、関連人材を紹介する会社も創設した。

◆危険あるが可能性も 弁護士・三平聡史さん

三平聡史さん

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 コインチェックからの仮想通貨流出で改めて明らかになったことは、交換業者に預けている仮想通貨がハッキングによって盗まれる危険があるということです。業者が破綻するリスクもあります。銀行は仮に破綻しても、預金は一定額まで保護されていますが、仮想通貨の世界はそうではありません。

 コインチェックは顧客から預かった仮想通貨をオンライン上で保管していました。ネットから遮断した状態での保管を義務付けるべきだという議論もあります。ただ、どんなにセキュリティー対策を強化しても、万全とは言えないのが現実です。

 仮想通貨がマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用されるという問題も指摘されています。対策としては匿名性の高い仮想通貨を扱わないようにすることですが、国内の交換所では買えなくても海外で買えるなら根本的な解決にはなりません。仮想通貨はインターネットさえつながればどこでも取引できます。それがメリットですが、マネーロンダリングではデメリットになります。一カ国だけで規制しても効果には限界があります。

 今は仮想通貨を投機の対象としか見ていない人が多く、マネーゲームとしか言いようがない状況です。しかし、仮想通貨には通貨としてのメリットがあります。一つは海外送金が速く、手数料が安いということです。以前は海外から日本に働きに来ている人が母国に送金する際に仮想通貨を利用するという使われ方もしていました。

 仮想通貨で買い物ができる店は、現状では多くはありません。では、将来はどうなるのか? 価格の安定を大前提として、安心して預けられる環境が整えば消費者も店舗もそれを使ってみようという気になり、仮想通貨によるモノやサービスの売買が広がるかもしれません。

 通貨として普及させるためには税金もネックになります。今は仮想通貨で買い物をすると、取得時からの値上がり分が課税対象になります。少額の買い物では煩わしいので、例えば二十万円以下の買い物は除外するなどの改善が必要でしょう。

 仮想通貨の基盤になっている技術は優れたものです。世の中を大きく変える可能性もあるとみています。弊害があるから規制すべきだという声もありますが、規制によって可能性をつぶしてはいけないと思います。

 (聞き手・越智俊至)

 <みひら・さとし> 1973年、埼玉県生まれ。早稲田大理工学部卒。2002年に弁護士登録。07年、弁護士法人みずほ中央法律事務所を開設。仮想通貨による弁護士費用の決済サービス導入を準備中。

◆貨幣ではなく投機物 国際基督教大特別招聘教授・岩井克人さん

岩井克人さん

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 ビットコインなどのいわゆる仮想通貨には、貨幣論から見て何も新しいことはありません。

 貨幣にはモノ自体の価値はありません。紙幣は単なる紙切れです。法律で決められているから流通しているのでもない。銀行預金は、法律や政府の定めなく貨幣として流通しています。

 では貨幣とは何なのか。「貨幣は貨幣として使われるから貨幣なのだ」と言うしかない。つまり、自己循環論法。そこに理由や根拠は必要ない。どんなモノでも、人々が貨幣として受け入れれば貨幣になる。

 したがって、電子情報も貨幣になりえます。その意味でビットコインは最も純粋な貨幣ですが、同じ試みは一九九〇年代の電子マネーが行っています。

 唯一の新しさは技術。ブロックチェーンという仕組みによって、偽造などのトラブルを国家や中央銀行の介入なしにある程度防げるようにした。それが多くの人々に支持され、闇経済に使われるなど応用も拡大。表の経済にまで広がれば、貨幣になる可能性も少しはありました。

 だが、いまビットコインは投機物になってしまった。将来の値上がりを期待してビットコインを持っているかぎり、貨幣として現在の価格で手放すはずがない。皮肉にも、ビットコインの人気が生み出した投機熱が、ビットコインを貨幣にする可能性を消してしまったのです。

 私がビットコインの将来性以上に注目しているのは、その基本思想です。国家や中央銀行による管理を嫌い、経済を全て個人のレベルで動かしたいというゴリゴリの自由放任主義。ブロックチェーンの仕組みには、その「理想」が純粋に表れています。

 しかし、自由放任主義は必ず不安定性を持ち、皆が利己主義的に行動すると必ず崩壊する構造になっている。自由放任主義に基づく資本主義経済を支える貨幣を見れば分かります。

 貨幣はそれ自身が純粋な投機。私が通貨を受け入れるのは、それをほかの人が受け入れてくれると思うから。つまり、ほかの人に渡す(売る)ためにのみ受け取る(買う)わけです。これはまさに投機で、必ずバブルを伴います。つまり貨幣は根源的に不安定であり、社会を不安定にしてしまう。それを防ぐために歴史は中央銀行を生み出しました。自由を守るためには、自分の利益よりは全体の利益を考える公共性が絶対必要なのです。

 (聞き手・大森雅弥)

 <いわい・かつひと> 1947年、東京都生まれ。東京大名誉教授。専門は理論経済学、経済学説・経済思想、基礎法学。2003年、『会社はこれからどうなるのか』で小林秀雄賞。16年、文化功労者。

 

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