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【考える広場】

強権目立つ習近平氏の原点 加藤直人・論説委員が聞く

 中国の習近平国家主席(共産党総書記)は昨年秋の党大会で、今世紀半ばまでに「総合国力と国際影響力でトップクラスの国になる」と述べ、米国の覇権に挑戦する姿勢すら示しました。言論統制で国内を引き締め、強い国を演出する政治スタイルの原点はどこにあるのか。習氏の政治思想を研究してきた柴田哲雄・愛知学院大准教授と一緒に考えました。

 <習近平氏の政治スタイル> 習近平氏は2012年秋の共産党大会で党総書記、翌13年春の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で国家主席に就任した。

 習氏の前任の胡錦濤、その前任の江沢民の両氏は、改革開放政策を進めた最高実力者・●小平氏の事実上の指名で中国トップの座についた。

 ●氏の死後、中央政界で台頭した習氏は自力で権力闘争を勝ち抜いた近年では異色の最高指導者といえる。

 「トラもハエもたたく」とのスローガンを掲げた「反腐敗闘争」が、格差にあえぐ庶民の喝采を浴び、短期間で権力基盤を固めた。

 一方、習氏の統治には新中国建国の父と言われた毛沢東に比肩したいとの野心も見え隠れする。言論統制をはじめ厳格な社会管理に対し、最近では「個人崇拝の風潮」を批判する抗議活動も目立つ。

 

◆毛沢東時代への回帰 愛知学院大准教授・柴田哲雄さん

柴田哲雄さん

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 加藤 習氏は「二期十年」の国家主席任期の上限を撤廃する憲法改正にまで踏み込み、「一強体制」を確実にしました。文化大革命の反省に立つ個人崇拝禁止という歴史的な政治の知恵に逆行する動きに映ります。習政権の将来をどう見ますか。

 柴田 習氏はいずれ地方勤務時代の部下などの中から後継者を指名するでしょう。しかし、習氏の死後、本人の思惑通りにならないこともあり得ます。その場合に何が起こるかを、韓国の事例を参考に考えてみましょう。

 韓国では政権交代のたび、現職大統領が前職の大統領周辺の腐敗を徹底的に追及するといった報復の連鎖が起こっています。これは壮絶な利権争いという一面をもっていますが、利権が大統領に集中しているからこそ起こるのです。

 一方、中国では少なくとも江沢民元総書記から胡錦濤前総書記へ、胡氏から習氏への政権交代は比較的平穏に進み、集団指導体制が堅持されてきました。韓国のように、政権交代に伴う壮絶な争いが起こらなかったのは、利権が高級幹部たちの間で分散されてきたからです。

 一方、習氏の反腐敗闘争はこうした利権を切り崩し、リセットするものです。結果的に韓国大統領のように、習氏周辺に利権が集中する事態をもたらすでしょう。習氏の死後、万一、指名された後継者以外の人物がトップの座を手に入れれば、習氏周辺の人物や組織と利権をめぐり激しく争う事態や政治的大事件になりかねません。

 加藤 習氏の地方勤務時代の政治を研究してこられましたが、江氏や胡氏の統治と比較し、習氏の統治意識はどのような経験や背景から生み出されたものだと考えますか。

 柴田 党運営については、習氏が「一強体制」、江、胡両氏が「集団指導体制」、内政と外交については習氏が「社会管理の強化と高姿勢」、江、胡両氏が「社会管理の緩和と低姿勢」と分類できます。習氏の政治スタイルは毛沢東時代への回帰といってよいでしょう。江、胡両氏の政治は、●小平氏が毛時代の反省に基づいて決めた路線に沿うものです。

 私が注目しているのは、習氏が四十代前半の時に発表した論文です。習氏はその論文で、●氏が始めた対外開放を、毛のように「高姿勢」で推進すべきだと示唆しています。その頃から、習氏は政権構想を温めていたものと思われます。そうでなければ、党総書記就任後早々に、外交路線を●氏の遺訓である「低姿勢」から「高姿勢」へと大胆に方向転換できなかったでしょう。

 習氏の毛時代への回帰という政治スタイルの原点は、北京の北海幼稚園時代にあったと考えられます。

 当時、高級幹部は配偶者ともども公務で多忙を極めていたことから、子どもの養育を全寮制の北海幼稚園に全て託していました。父母代わりの教諭の手で、園児たちに毛への個人崇拝を含む社会主義の教育が徹底的に行われていました。

 文化大革命で迫害された習氏は辺ぴな農村に送られ重労働を強いられました。しかし、習氏はこうした苦難を、毛が課した「試練」ととらえ、それを乗り越えることで、毛の心にかなう良き共産主義者になろうと努めています。

 加藤 習氏は「先進諸国の行き詰まりが市場経済と民主主義の限界を証明した」と述べ、強い共産党支配による安定した国家運営を目指す方針です。習氏が主張する「中国モデル」は、彼が否定する西側民主主義に比べ、今後の国際関係でどのような優劣があると思いますか。また、「大国主義」を掲げる習時代の米中関係をどのように展望しますか。

 柴田 近い将来、中国が米国に代わり、グローバルな規模で覇権を築くことなど考えられません。ただ、アジア地域に限ると近年、中国主導の統治システムが築かれつつあります。

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 中国はまず経済面から米国の覇権に挑戦しています。中国に強い警戒感を抱くアジア諸国にとっても、その巨大な経済力は魅力的に映ります。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」構想は、沿線国への「新植民地主義」との批判はありますが、アジア諸国から圧倒的な支持を得ています。

 トランプ米大統領は、貿易戦争という手段で対抗しようとしています。しかし、貿易戦争は、中国だけでなく同盟国をも巻き込み、かつ「西欧モデル」の重要な構成要素である自由貿易の理念を危機にさらしています。

 「中国モデル」は「強力なナショナリズム」「権威主義的体制」「市場経済の活用」の組み合わせと定義されています。「中国モデル」は、アジア・アフリカ諸国に静かに浸透しています。中国がその輸出に熱心であることも一因ですが、「中国モデル」に経済的繁栄の裏付けがあることが、大きな要因でしょう。

 一方、習氏が指摘するように、欧米各国では近年、経済成長の鈍化や格差の拡大に伴って、民主主義の劣化が起こっており、アジア・アフリカ諸国では「西欧モデル」の訴求力が低下しています。

 私たちは「西欧モデル」を守るために、経済的活力を取り戻すよりも、民主主義自体がもつ価値を改めて評価すべきではないでしょうか。その意味でも、安倍政権下で加速度的に進むメディアへの圧力など民主主義の劣化に無関心であってはならないと思います。

 中国でも、民主主義がもつ価値を評価している市民は潜在的に少なくありません。「中国モデル」の下でも、経済的繁栄により、広範な市民が民主主義を求めるようになる事態も十分予測されます。日本の市民も草の根交流を通して、中国のそうした市民と連帯すべきでしょう。

 加藤 李克強首相の訪日と日中首脳会談で、尖閣問題により悪化した両国関係は改善の道筋が見えました。ただ、日中首脳間の信頼が深まり、懸案が解決したことによる、抜本的な改善とは思えませんね。

 柴田 中国による対日関係改善への歩み寄りは、主として米中関係の不安定化のためでしょう。中国は、北朝鮮の核問題で協調しても、それが対米関係の根本的な改善につながらず、貿易戦争を仕掛けられたり、南シナ海で「航行の自由」作戦を継続されたりしています。そこで当面、周辺国との関係改善を図り、足元を固めようとしているのでしょう。

 ですから、近い将来、米中関係が好転すれば、中国の対日姿勢がまた耐え難いほど強硬になる可能性はあります。楽観視は禁物でしょう。

 ※●は登におおざと

 <しばた・てつお> 1969年、名古屋市生まれ。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間・環境学)。京大総合人間学部非常勤講師などを経て、現在、愛知学院大教養部准教授。専門は歴史学、政治学。著書に『習近平の政治思想形成』(彩流社)など。

 

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