東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 文化 > 考える広場 > 記事

ここから本文

【考える広場】

ごみ収集からみる地方自治 早川由紀美・論説委員が聞く

 高齢化やコミュニティーの変容…。ごみを集める清掃作業員たちは、小さな変化にも気付くそうです。九カ月にわたり、東京都新宿区で収集作業を体験した大東文化大の藤井誠一郎准教授(48)と一緒に、ごみから見える街の姿や今後の地方自治について考えました。

◆地域熟知する「資産」 大東文化大准教授・藤井誠一郎さん

藤井誠一郎さん

写真

 早川 九カ月にわたるごみ収集体験をもとに書かれた著作「ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治」(コモンズ)には、知られざる現場の姿が詰まっていました。ごみから街のさまざまな現状も浮かんでくるんですね。

 藤井 収集作業員は、地域を本当によく見ています。どこに空き家があるかはもちろん、どこに民泊があるかも知っています。民泊があるマンションからは、まるで分別されていないようなごみが出てきますから。私も収集作業を続けていくうち、袋を持った瞬間に「やばい」ごみが入っているかどうか分かるようになりました。飲食店が集中する繁華街のごみの袋から注射器が出てきたこともありました。集積所を見れば、そこがどういう地域なのかは分かります。

 早川 とくに驚いたのは、自分でごみを出すことが困難な要介護の高齢者などを対象に、自宅まで取りに行く「訪問収集」というサービスがあることでした。収集日に三回連続でごみが出ていなければ、体調不良などの可能性もあると考えて、福祉部門に連絡するそうですね。そんな形でごみ収集と福祉が結び付いているとは思いませんでした。インタビューの前に私も新宿のごみ収集現場を見学させていただきました。高齢化が進む都営戸山団地では二十数世帯中四軒が訪問収集という階もありました。猛暑の今夏は、訪問収集の日に高齢者が玄関でかがみ込んで清掃作業員を待っていて、「救急車を呼んで」と頼まれたこともあったそうです。決まった曜日、時間に来ることが分かっているので、高齢者の安心感にもつながっているような気がしました。

 藤井 一般の収集もきめ細かな配慮のもとに日々、行われています。水分の多いごみはプレス車(車体後部の機械でごみを圧縮してかさを減らしながら積み込む車)で圧縮するときに水分が飛びます。細い路地では近くを通る人に水分が飛ばないように作業員が身をていして壁になるんです。ごみの出し方は地域でトラブルにもなりますが、住民の言い分を柔らかく受け止め、いざこざが大きくならないように苦心していました。

 早川 バブルが崩壊した一九九〇年代以降、国が旗振り役となって、人員削減や民間委託など、地方自治体の行政改革が進みました。ごみ収集の現場でも民間委託が進んでいます。藤井さんは、地域を熟知しているなどの「付加価値」が失われていくとして、今の流れに批判的ですね。

 藤井 収集の現場に入ってみて、作業服の色が違う人がいることに気が付きました。委託された業者から来ている人たちです。行政のノウハウがその分、外に流れていっている。ごみ収集量全体の中で自治体が直接集めている割合は八九年には五割を超えていたのが、現在は二割強まで下がっています。仕事を細切れにしてしまうと、行政が全体をどこまでコントロールできるかという心配が出てきます。自分の経験からそういうところに目が行くのです。私は九三年度の大学卒業で、不況期に就職活動をしました。総合商社などもいいとこまではいくけれど落ちて、母校の同志社大の事務職員になりました。学内のITの担当をしていた時期もあり、業者に仕事を委託するわけですが、自分が知識を蓄えていなければ、経費面も含めて業務を管理できません。ですから、職人的にのめりこんで勉強しました。まかせきりになってしまうと、次の計画をどうしていいかも分からなくなります。

 早川 住民とのかかわりなど現場の機微も含めた全体像を知る人がいなくなると、柔軟に次の展望を描くということが難しくなるかもしれませんね。

 藤井 地域を見守り、かゆい所に手が届くようなサービスをする正規の職員を減らして、質を落としていくことが住民の求めている効率化なのでしょうか。住民に選択肢を示して、選ぶ機会があってもよいと思います。

写真

 早川 九〇年代末に、取材で中部地方の最終処分場を見せていただいたことがあります。燃えないごみと、燃えるごみを焼却した灰が埋め立てられているはずが、中身の残ったマヨネーズの容器なんかも交ざっていてカラスがつついていました。今回、取材させていただいた新宿区では、作業員が不燃物の袋を一つ一つ破いて蛍光灯や小型家電など、徹底的に分別をしていました。リサイクル社会に転換していることを実感しました。レジ袋をもらわないなど、ごみを出す側の意識の変化も影響しているのか、一人あたりの排出量は二〇〇〇年をピークに減少を続けています。それ自体は喜ばしいことだと思いますが、行政の仕事を「量」だけで測るということを続ければ、清掃の現場ではさらに削減、縮小という意味での行政改革が進んでいく可能性があります。「質」を測る新たな物差しが必要かもしれません。

 藤井 リストラの対象になる「負債」ではなく、地域を見守り、移りゆく姿をリアルタイムで知っている強みを「資産」と考える新たな価値観が必要だと思います。自治体として今はその強みが分かっていないと思います。例えば高齢者などの訪問収集で清掃と福祉の部門がつながっているように、どこかの部署と協力して新たな住民サービスをつくり上げていくことも行政改革の一つの形ではないでしょうか。今ある資産に磨きをかけていくことも行政の仕事です。一方で、清掃部門で働く人たちの中には、新たな仕事が加わることを「労働強化」ととらえる人もいます。ただ財政難が続く中、現状のままでは委託化の流れは止められないでしょう。自分たちが行政改革を提案するんだというふうに、意識を変えていくことも必要だと思います。

 早川 清掃部門だけでなく、行政の各領域で知られざる資産、潜在能力が眠っている可能性もあります。どこにどういう資産があり、どう組み合わせていくことが、住民の満足度を上げていくことにつながるのか。人口減少や高齢化が進む中、協調することによっての行政改革ということが可能なのかを探るためには、行政のトップがまず全体の資産を掘り起こすことが重要になる気がします。

 藤井 そうなると随分、違ってくると思います。清掃車に乗ってみて気が付きましたが、作業員は地方自治を守っているとまでは言わないが、しっかりと陰で支えています。そういう人たちが活躍できれば、もっといい世の中ができるんじゃないかという思いがあります。

 <ふじい・せいいちろう> 1970年広島県福山市生まれ。同志社大卒業後、同大職員として勤務。働きながら夜間に同大大学院に通い、43歳で博士号を取得。研究者に転身し、2018年から大東文化大法学部准教授。

 <地方自治体の行政改革> 1990年代以降、国は地方分権を推進するとともに、地方自治体には人員削減や業務の外部委託などの行政改革に取り組むよう促している。地方自治体の総職員数は94年の328万2492人をピークに年々減少。2017年は23年ぶりに増加に転じたが、ピーク時の8割程度となっている。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報