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【文芸時評】

村田沙耶香「地球星人」 高橋弘希「送り火」 佐々木敦

高橋弘希氏

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 私が本欄を担当して四年目に入った。時の経(た)つのは実に早いものである。

 高橋弘希「送り火」(『文学界』5月号)は、両親とともに青森県の平川に転居し、来春に廃校が決定している地元の中学に通うことになった中学三年生の歩(あゆむ)の物語である。彼と同じ学年には他に十二名の生徒しかいない。父親が転勤族のせいで何度も転校を繰り返してきた歩は、学校生活をどこか達観している風であり、新しい環境に溶け込むことに長(た)けている。彼はすぐに同学年の男子生徒五人と仲良くなる。リーダー格の晃には意志の強さと行動力があり、歩の推薦で学級委員長に選ばれるが(歩も晃の指名によって副委員長になる)、時おり異常とも思える暴力性を見せることがある。それはしばしばやはり同級生の稔に対して発揮される。以前、晃の稔への仕業が事件になりかかったこともあるのだが、それでもなぜか稔は歩たちのグループの一員として日々つるんでいる。

 途中までは、ありきたりと言ってもいい「田舎に転校した少年の話」が、この作家ならではの濃密な描写とともに続いていくのだが、花札を使った「燕雀(エンジャク)」という遊びが出てきたあたりから、不穏な空気が漂い始める。いつも必ず晃が胴元なのだが、歩は彼が巧みに札を操作していることに気づく。そしてほとんどの場合、稔がドボンになり、残酷な罰ゲームを強いられる。だが晃は教室で稔を故意に無視したクラスメートを殴ったりもする。稔はいつも半笑いで、晃に命じられるがままでいる。だが少しずつ歩たちの日常は失調していき、やがておそるべきクライマックスが訪れる。

 高橋の小説にはこれまでも、静けさを喰(く)い破って突然顔を出す凶暴さ、とでも呼ぶべき事態が描かれてきた。だがとりわけ、この結末は凄(すさ)まじい。僻地(へきち)の少年たちが暇つぶしに行う異様な遊戯という域をはるかに越えて、そこには世界そのものの否定性が宿っている。若手作家の中では際立って粘り気のある文章力もあいまって、ともすれば「文学臭」が過剰に思える部分もあるが、意欲作であることは間違いない。

村田沙耶香氏

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 村田沙耶香の長編一挙掲載「地球星人」(『新潮』5月号)は、ひょっとしたら「コンビニ人間」以来の小説ではないだろうか。となると約二年ぶりの新作ということになるのだが、待たされただけのことはある途轍(とてつ)もない傑作に仕上がっている。

 物語は奈月(なつき)という女性の一人称で語られる。こどもの頃、奈月は家族とともに父親の郷里である長野県の秋級(あきしな)に毎夏行っていた。そこは山を幾つも越えた先にある村で、千葉に住む奈月にとっては自然の豊かさに満ちた理想郷のような場所だった。だが、年に一度の秋級が待ち遠しいのは、同い年のいとこの由宇(ゆう)に会えるからだった。小説の始まりの時点で奈月は小学五年生だが、小三の時から二人は秘密の恋人同士なのだ。由宇以外の誰も知らないことだが、奈月は実は魔法少女なのである。ハリネズミのぬいぐるみの姿をしたポハピピンポボピア星人のピュートが、奈月に地球を守る使命を託した。由宇も自分は宇宙人なのではないかと疑っていたのだが、奈月によってポハピピンポボピア星人だったことが判明する。もちろん全てはおそらく妄想なのだが。

 そうして二人は恋人となった。奈月は母と姉に酷(ひど)い扱いを受けており、塾の青年教師から性被害を受けても信じてもらえない。由宇には父親がおらず、母親は彼に過度に依存している。そして小学六年の夏、奈月と由宇はセックスしているところを親たちに発見され、無理矢理引き離された。

 そこでいきなり時間が飛び、奈月は三十四歳になっている。三年前に結婚し、生まれ育った千葉の実家近くのマンションで夫と二人で暮らしている。では由宇とのことは遠い想(おも)い出になり、ごく普通の生活を営んでいるのかというと、まったくそうではないのが村田の小説である。夫とは「すり抜け・ドットコム」というサイトで知り合った。家族はもちろん知らないが、出産、性交はもちろん身体的な接触さえ極力せず、寝室も食事も別々という契約での結婚だった。夫は奈月以上に普通の社会生活に適応出来ず、人間たちの営みを「工場」と呼んで忌み嫌っている。あるとき奈月は夫にせがまれて、あの日以来二十数年ぶりに秋級に行くことになる。そこには現在、由宇がひとりで暮らしていた。三人は奇妙な共同生活を始め、次第に「地球星人」への憎悪を募らせていく。

 「殺人出産」「消滅世界」「コンビニ人間」と書き継がれてきた村田の「反・人間」小説の最新作は、結末に至って、グロテスクでショッキングな、完全なる狂気の世界に突入する。いや、これはほんとうに「狂気」なのだろうか。そう思うのはこちらが「地球星人」であるからではないのか。村田は私たちが「本能」だと思っているものに楔(くさび)を打ち込み、内側から破壊する。戦慄(せんりつ)と吐き気に満ちた美しさが、そこに現れる。

 (ささき・あつし=批評家)

 

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