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【新国立競技場問題】

無責任ドミノ 新国立ドタバタ劇検証

新国立競技場の建設予定地=17日、東京都新宿区で、本社ヘリ「あさづる」から

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 新国立競技場(東京都新宿区)の工費は、なぜ2520億円に膨らんだのか。早めの軌道修正は不可能だったのか。計画に携わった当事者らの無責任と不作為の連鎖を立案、発注、政治判断という三つの角度から振り返った。(森本智之、沢田敦、我那覇圭)

(1)立案 有識者会議など

◆要望詰め込みすぎ矛盾

 新国立競技場をどんなスタジアムにするか、二〇一二年三月に始まった有識者会議では、委員から上がる設備要望を次々に盛り込んだ結果、どんどん巨大化した。当初から計画を批判してきた建築エコノミストの森山高至氏は「あれもこれもと詰め込んで、コンセプトのない施設になった」と指摘する。それはスタジアムとしてさまざまな矛盾も生み出した。

 サブトラック(ウオーミングアップ場)は陸上の国際大会はもちろん、国体など国内レベルの大会でも必須の施設。だが、サイズの膨張に伴い、建設地の余裕がないなどとして常設化を取りやめ、五輪では仮設で対応することになった。

 逆に優先された開閉式屋根はコンサートのため、八万人の観客席は将来のサッカー・ワールドカップ(W杯)招致のためだった。

 新国立の延べ床面積は二十九万平方メートルから後に二十二万平方メートルに縮小されたが、五輪史上最大規模。建築家の槇(まき)文彦氏は「この規模の大きさこそ問題の根源」と指摘する。

 続くデザインコンペは応募期間二カ月、審査に二カ月しか余裕がなかった。審査委員長の安藤忠雄氏が自身のつてを頼りに直接メールで応募を呼び掛けるほどのドタバタだった。

 当選した英国在住の建築家ザハ・ハディド氏のデザインについて「(巨大アーチ構造は)かなりコストがかかる懸念はある」と指摘する委員もいたが、安藤氏自身、今月の会見で「徹底したコストの議論にはなっていなかった」と認めた通り、デザインの斬新さばかりが注目された。

 実は当時、応募作品が本当に建設できるかどうか、項目ごとに技術調査が実施された。ザハ氏案は「全体的に想定価格に収まっているか」の項目で「○」が付くなど、コストについて問題なしと判断された。

 中心で担当したのは事業主体、日本スポーツ振興センター(JSC)の技術アドバイザーを務める和田章・日本建築学会元会長。後に自民党内の会合で、建設費について「(国民一人当たりに換算すれば)一杯飲みに行くくらいの費用。ちまちまけちることはない」と豪語している。

(2)発注 文科省とJSC

◆当事者意識 危機感薄く

 新国立競技場の事業主体のJSCが昨年五月、基本設計を公表した際の予算は千六百二十五億円だった。しかし同年十月には、槇氏ら建築家グループが工費が二千五百億円に達するとの試算をまとめた。

 所管する文科省の動きは鈍かった。今年二月上旬には「工費が三千億円超、完成も一九年九月のラグビー・ワールドカップ(W杯)に間に合わない」とのゼネコンの見積もり情報をJSCを通じて把握したが、JSCに調整を指示しただけ。

 その後もゼネコン側との交渉をJSCに任せきりにした。下村博文文科相に調整不調を報告したのは四月になってからだった。

 巨額に膨らんだ工費への危機感が省内に薄かった。ある同省幹部は「W杯に間に合わせることが優先だった」と明かす。五月に入り、開閉式屋根の設置先送りなどを決めたが、あくまで工期短縮策で、コスト削減策ではなかった。「もう少し早く手を打てば…」。幹部は悔いた。

 文科省から「一任」されたJSCも、そもそも選手強化やスポーツ振興くじtotoを担当し、巨大施設建設を担ったことはない。今月七日の会見で河野一郎理事長が発したのは「(ザハ氏の)デザインを前提に工事を進めることが、われわれのミッション」「国際オリンピック委員会は、国が造るものだと(考えている)」。当事者意識の薄さを象徴する言葉だった。

(3)政治判断 首相

◆見直し提言に鈍い反応

 政府の五輪推進本部長を務める安倍晋三首相。二〇一三年九月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で招致演説を行うなど、東京開催決定までは前面に出たが、その後の建設計画は文科省に任せていた。

 しかし、政府関係者によると、首相の盟友である麻生太郎財務相は、複合的な機能を持つ施設として計画が進んでいく様子を見て「建設費が高くなるぞ」「国民負担が大幅に増えかねない」と再三、首相に警告していたという。

 官邸サイドがこうした声に反応し、主体的に工費抑制に動いたとは言い難い。首相が下村氏に対し、計画を見直せないか検討を指示したのは、今月十七日にゼロベースでの見直しを表明する一カ月ほど前。遠藤利明五輪相が就任した六月二十五日深夜には、麻生氏が都内にある首相の私邸を訪ね、約一時間半にわたって会談した。

 首相の公務終了後、閣僚が私邸を訪ねるのは異例だが、この段階でも首相は見直しを完全に決断していなかった。

 政府高官は「五輪が決まってから、槇先生などからいろいろ(見直し提言が)あったのに、わが政権は手をつけてこなかった」と認める。

◇国立競技場将来構想有識者会議

 国立競技場の将来構想を議論するため、日本スポーツ振興センターが2012年3月に設置した。現在のメンバーは次の通り。 (いずれも敬称略、※=委員長)

 安西祐一郎(日本学術振興会理事長)

 安藤忠雄(建築家)

 小倉純二(日本サッカー協会名誉会長)

※佐藤禎一(元文部次官)

 鈴木秀典(日本アンチ・ドーピング機構会長)

 竹田恒和(日本オリンピック委員会会長)

 張富士夫(日本体育協会長)

 都倉俊一(作曲家、日本音楽著作権協会長)

 鳥原光憲(日本障害者スポーツ協会長)

 馳浩(スポーツ議連事務局長)

 舛添要一(東京都知事)

 森喜朗(大会組織委員会会長)

 横川浩(日本陸上競技連盟会長)

 笠浩史(大会推進議連幹事長代理)

◇国際デザインコンペ審査委員会

 新国立競技場のデザイン選考のため、日本スポーツ振興センターが設置した。2012年10〜11月に審査し、応募46作から英国在住の建築家ザハ・ハディド氏の作品を選んだ。メンバーは次の通り。

※安藤忠雄(建築家)

 鈴木博之(故人、建築家、青山学院大教授=当時)

 岸井隆幸(建築家、日本大教授)

 内藤廣(建築家、元東大副学長)

 安岡正人(建築家、東大名誉教授)

 小倉純二(日本サッカー協会名誉会長)

 都倉俊一(作曲家、日本音楽著作権協会長)

 河野一郎(日本スポーツ振興センター理事長)

 リチャード・ロジャース(英国人建築家)

 ノーマン・フォスター(英国人建築家)

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