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【論壇時評】

小池都知事の捉え難さ 焦燥、動揺を見せる右派 中島岳志

 東京都議選の結果は、「都民ファーストの会」の圧勝だった。結党から間もない政党が、追加公認を含めると単独過半数まであと九議席に迫る大勝利をおさめた要因は、ひとえに小池百合子都知事の存在によるところが大きい。

 ただ、小池百合子という政治家を論じることには、常に困難がつきまとう。過去の発言や主張を追っても、政治理念や思想の一貫性を見いだすことが難しいからだ。日本社会のあり方についてのビジョンが不鮮明で、政局に合わせて揺れ続ける。政治的支持を取り付けたい相手に応じて、リップサービスをくり返すものの、具体的行動が伴わない。変節するということにおいては、明確な一貫性が存在する。

 実際、小池は政局を巧みに渡り歩いてきた。細川護熙、小沢一郎、そして小泉純一郎。時の権力者・有力者に寄り添い、発言力を獲得して来た。その政治的嗅覚の鋭さを評価する人がいる一方で、その節操のなさに嫌悪感を示す人も多い。

 小池の政治行動や発言に対しては、左派/右派の双方から支持が表明される一方で、同時に双方から厳しい批判が向けられる。築地市場の豊洲移転にいったん待ったをかけた行動には、左派の多くがシンパシーを抱いたが、一方で都知事選挙立候補の際には、右派的な歴史観を強く押し出す「新しい歴史教科書をつくる会」が支持を表明した。外国人参政権に反対し、歴史認識を共有することが支持の理由だという。

 都知事就任から約一年。小池は都議会第一党の座を手にし、支持勢力を含めると過半数を占めるに至った。安倍内閣への批判が高まる中、国民の不満の受け皿となって国政に進出することも取り沙汰されている。

 そんな中、焦燥と動揺を見せるのが右派論壇である。小池が味方なのか敵なのか、測りかねて混乱しているのだ。

 それを象徴するのが屋山太郎「ふくらんだ期待がしぼんでいる…」(『正論』8月号)である。屋山の期待は、小池が左派系労働組合の影響力を排除することにある。「日教組などとの悪(あ)しき癒着を断ち切ることで、東京都という単なる一自治体を超えた全国レベルの改革をする」ことが願いである。

 しかし、小池はなかなか要望に応えてくれない。風船を膨らませるのはうまいが、空気がすぐに抜けてしまう。そして、あろうことか安倍内閣の地位を脅かすような勢力になろうとしている。自民党の政治家のなかにも、関係を断ち切るべきだとの考えが広がっている。しかし、「教育改革」などでは安倍首相の「同志」であることは間違いない。何とか安倍内閣と連携し、都政改革を推進してほしい−。その切実な思いは論考のサブタイトルに端的に示されている。「小池よ、急げ 今ならまだ安倍と“共闘”できるぞ」

 一方、大田区議会議員の犬伏秀一が寄稿した「拝啓 小池百合子さま 『自分ファースト』になっていませんか?」(同)には、小池に対する懐疑の念がより強く示されている。犬伏が批判するのは、時の権力者に迎合しつつ地位を獲得し、一方で「敵」を設定することで大衆的支持を獲得しようとする政治スタイルである。当然、主義主張には一貫性がなくなり、公約は空転する。部分的には右派的主張を行うものの、明確な信念があるかがわからない。実行性にも疑問符が付く。「小池さん、単刀直入にうかがいますが、あなたは保守政治家なのですか。私はとても疑問です」

 『月刊Hanada』8月号の特集「小池百合子とは何者か?」には、『正論』よりも厳しい批判の論考が並ぶ。小川栄太郎「小池百合子と日本共産党」は、小池政治の特徴を「憎悪、空疎、破壊」であるとした上で、豊洲市場問題で共産党と連携したことを問題視する。小川の危惧は、小池のポピュリズムが共産党と結びつくことで全体主義化することである。同誌に掲載された別の論考や対談も「共産党との共闘関係」を指摘し、危機感を鮮明にする。小池に対する警戒心は強い。

 以上のような右派論壇の論調も、小池自身と同様に揺れ続けている。お互いが政治的に利用し合っていることの証しだろう。

 右派内部の「敵/味方」論争から判然と距離をとり、小池の特徴を浮かび上がらせるルポが石井妙子「男たちが見た小池百合子という女」(『文芸春秋』8月号)である。小池を間近で見てきた有力者にインタビューをくり返すことで、小池の実像を描いている。結果、見えてきたのはスポットライトを浴びること自体が自己目的化する姿である。どこに行けば注目を集め、どうすればヒロインとして扱われるかを常に考える「女優」気質こそが小池の特徴であり、そのスタイルに「彼女自身も振り回され続けているのではないだろうか」と指摘する。的確な批判だ。

 私たちもまた、小池の気質に振り回され続けている。その実像をさらに分析する必要がありそうだ。

 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

 

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