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【経済】

<包容社会 分断を超えて>(中) 半径数メートルの実感 大切に

「自分たちの足元から政策を紡ぐことが必要」と話す佐藤滋さん

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◆分かち合いの仕組み研究・佐藤滋さん(35)

 東日本大震災直後の二〇一一年五月に仙台市の大学へ赴任して、学生と一緒に市内の仮設住宅の高齢者を支えるボランティアに参加しました。皆さん、普段は明るい表情です。でもその裏に大変そうな様子も見受けられ、本格的な調査を始めることになりました。

 学生たちは仮設住宅に何度も通い、家族構成や家計収入などを丹念に聞きました。震災から何年もたっているのに、多くの高齢者が仮設住宅から出られなかったのはなぜか。仮設から出ようにも家賃を払えるだけの経済力がなかった。非正規雇用など、不安定な仕事を強いられた人が多くいたためです。

 震災前は家族や地域の人たちと支え合って、生活できた。震災によってそのつながりが断ち切られ、突然、市場原理の中に放り込まれたのです。震災は雇用、家族、地域の劣化という日本が直面する問題を貧困という形で鮮明に露出させたといえます。

 必要なのは、自分たちの足元から生活保障のあり方を変えていく政策を紡ぎ出すことです。政治家が選挙の瞬間にだけ発する言葉に流されないためにも、半径数メートルの身近な生活実感を大切にして事実を見極めたい。 

◆貧困学生の負担 分かち合う

東日本大震災から6度目の新年を迎えた被災地。津波で大きな被害を受けた宮城県名取市閖上では多くの被災者らが初日の出を静かに見守った=1日午前6時54分

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 私と学生たちは、ボランティアを主宰するNPO法人とともに、仙台市内の仮設住宅に住む被災者の経済的な状況を調査しました。分かったのは、平均の世帯収入が年百七十九万円で、震災前より七十万円も落ち込んでいたという実態です。震災が強制的にそういう状況をつくった。

 日本ではいま、二十四歳未満の若い世帯で貯蓄率が高まっています。手取りが増えず、貯蓄に回す余裕がないはずなのに。これは日本の生活保障が不十分なため、将来の生活に備えて蓄えるしかないからです。

 さらに大学に進学した若者は奨学金も返さなければならない。月に八万円の奨学金を借りた学生で卒業までに五百十数万円、十二万円借りれば八百万円近い借金を抱えます。返済しながらも必死に貯蓄する現状の中で、生活保護の受給者や、より弱い人をたたきたくなる人が出てきている。所得階層の間の分断は極めて深刻です。

 学費は年々高くなり、私立大では年間九十万円近い。それでも彼らは高校卒で働く過酷さを知っているから、大学に進む。しかし、お金に余裕がない人ほど勉強に時間が取れず、さらには就職も奨学金の返済も難しくなるという悪循環にはまってしまう。

 教育費負担のあり方を学生と話し合うと、増税しても学費を無償化するべきだとの結論に至ります。自分たちの置かれた不合理に怒りを感じるようです。

 日本は国際的に見て税負担が軽い国です。しかしその分は、教育や医療などの自己負担として跳ね返ってきています。

 日本でも中間層が減り、ワーキングプアが増えています。生活する上でのリスクは、個人が背負うには重くなりすぎている。みんなが払った税金で個人の負担を社会全体で分かち合う連帯の仕組みをつくる必要があるのではないでしょうか。

 日々の生活に余裕がなくなると、私たちは扇動的な言葉に簡単にだまされてしまう。英国の欧州連合(EU)離脱や米大統領選では、政治家が困っている人を熱狂させる言葉を放ちました。日本も同様です。「アベノミクス」で生活がどれだけ豊かになったか。こうしたことが繰り返されれば、人々は民主主義に失望してしまうでしょう。

  (聞き手・白山泉)

<さとう・しげる> 2011年4月から東北学院大経済学部准教授。専門は財政学、イギリス財政史。共著に「租税抵抗の財政学」。奨学金の取り立てなどの相談に応える「みやぎ奨学金問題ネットワーク」を15年4月に設立した。新潟市出身。

 

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