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【経済】

株価「過熱」サイン出にくく 日銀「バブル警報」緩和

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 日銀が二〇一四年に「金融活動指標」(ヒートマップ)の株についての基準を変更した後、株価の過熱を警告するサインが大幅に出にくくなっていたことが判明した。本紙が専門家の協力を得て調べた。株価が上昇する中、日銀が株を買い続けていることに、専門家からはバブルにつながるとの懸念が出ており、日銀が基準を緩めたまま株を買い続ける是非が問われそうだ。 (渥美龍太)

 ヒートマップは、バブル崩壊やリーマン・ショックが経済に深刻な傷痕を残した反省から、株や土地市場の過熱を早めに知るため一二年に導入した。株価では、東証株価指数(TOPIX)がそれまでの傾向から懸け離れて上昇すると「警報」が示される。警報が続けば日銀は、金融引き締めなどで市場を冷やすことを迫られる。

 だが、日銀は黒田東彦(はるひこ)総裁が一三年に大規模緩和を始めた一年後、基準を変えていた。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏の推計では旧基準では一三年以降「同年七月〜一四年三月」などひんぱんに警報が鳴っていた計算。だが、新基準では一五年の短期間(四〜六月)に一度鳴っただけ。株価はリーマン・ショックで暴落する前の〇五〜〇七年に大幅上昇していたが、新基準をさかのぼって適用した場合、この急騰も過熱とみなされない。

 日銀は「過熱をとらえるためのよりよい基準にした」と説明するが、みずほ証券の上野泰也氏は「株買いなどの金融緩和を続けるため、バブル警戒の姿勢を弱めた」とみる。

 最近の株上昇は、今の緩い基準でも警報が鳴りそうな水準にある。七〜九月はTOPIXで、一七五一が警戒サインが出ない上限だったが、十二月二十一日の終値は一八二二。十月から約一五〇ポイントも上昇しており、十〜十二月は過熱認定される可能性がある。日銀は上場投資信託(ETF)の形で年六兆円ずつ株を買う現行政策を続ける方針を示しているが、上昇局面でも買い続けることで株価を実態以上に押し上げ、バブルを起こす懸念がある。

 日銀の株買い入れには、導入時から異論が根強かった。株価は経済が成長して企業がもうかれば上昇する「景気の鏡」だが、人為的に押し上げても成長にはつながらないとみる経済専門家が多い。他の先進国の中央銀行は株の直接買い入れをしていない。七月まで日銀審議委員を務めた木内登英氏は「事実上株価を上げるためにETFを買っている状況。市場をゆがめており、早く買い入れを減らすべきだ」と提言している。

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◆「株価押し上げ策」に変質

 日銀の株買いは、世界の主要な中央銀行が誰もやっていない「禁じ手」とされる。買う理由があいまいなうえ、自らの財務へのリスクを高め、続ければ続けるほどやめるときに価格が暴落する危険も増す。

 黒田東彦総裁は二十一日の会見でも「現時点でバブルになっている状況ではない」として株買い入れを続ける方針を強調した。日銀は株を買う理由を「リスクプレミアムに働き掛けるため」(総裁)と説明する。日銀が株を買うことでリスクが低くなり投資家が買いやすくなる、といった意味合いだ。

 米国の中央銀行が住宅ローン関連債券などリスクの高い資産を買ったのは、もともとリーマン・ショック後に市場が完全に冷え込んだ際、投資家を呼び戻すためだった。だが今、日本の市場はリーマン後のような危機にはなく、非常時の緊急避難的な例外措置はいつのまにか「株価押し上げ策」に変質してしまっている。

 三井住友アセットマネジメントの渡辺誠氏によると、日銀が株を年六兆円買う方針を決めた後、株価が午前中の取引で0・5%以上下げると、午後に必ず日銀が買っている。「下がれば日銀が買ってくれる」という投資家もおり、市場参加者の甘えがバブルにつながりやすい状況といえる。

 日銀は今や約二十兆円の株を抱える。日銀が最大の株主という大企業が増えており、経営に緊張感が失われることも懸念される。株価が下落すれば、日銀自身も大きな損失を抱えることになる。

 それでも続けるのは「政府に気兼ねして株価を下げられないため」(エコノミスト)だろう。

 中央銀行の本来の役割は「パーティーが乱れる前に、お酒の入ったパンチボウルを片付ける」ことといわれてきた。本来の使命を全うするのか、場が乱れきるまで酒を出し続けるのか。中央銀行としての覚悟を問われている。

<金融活動指標> バブルの発生の可能性を早めに察知するための指標。不動産、企業の設備投資、株価など14の項目で、過熱の警報サインが示される。株価では過去の株価データを基にトレンドを算出。トレンドの上下に一定の帯域を設け、超過した場合に「過熱」や「停滞」と判定する。日銀は14年4月に基準変更した際に、帯域の幅を広げ過熱サインが出にくくなった。結果は年2回公表している。

 

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