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【経済】

海賊版サイト遮断、先送り 法制化賛否、溝埋まらず

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 漫画などをインターネット上に無料で公開している海賊版サイトへの対策を検討する政府の有識者会議は十九日、予定していた中間取りまとめを延期した。ネット利用者が特定サイトを見ることができないようにする「接続遮断(ブロッキング)」の法制化に対し異論が相次ぎ、賛否の溝が埋まらなかった。

 明確に反対したのは委員十八人のうち、憲法学者の宍戸常寿(じょうじ)東京大大学院教授ら九人。連名で「ブロッキングの法制化は憲法違反の疑いが強い」と意見書を提出した。接続を遮断するにはプロバイダー(インターネット接続事業者)が利用者の接続先を監視しなければならず、憲法で定めた通信の秘密などを侵害する恐れがあるからだ。

 取りまとめ案には、新たに著作権者とプロバイダーが協議会を立ち上げ、海賊版サイトの収益源になる広告の出稿を差し止める制度などブロッキングに頼らない取り組みも盛り込まれている。宍戸氏らは「まずは新たな取り組みの実効性を検証し、ブロッキングの法制化を検討するのはそれからだ」と指摘した。

 一方、政府とブロッキングに賛成する委員は刑法の「緊急避難」が適用できる可能性を指摘している。「正当防衛」のように、差し迫った危険を防ぐためにほかの手段がない場合は、違法行為をしても処罰されないという規定で、出版社カドカワの川上量生社長は「やれることはすでに尽くしている」と語る。

 政府は海賊版サイトにより出版社の利益が侵害されているとして四月に緊急対策をまとめ、プロバイダーに対し「漫画村」など海賊版三サイトへの接続の遮断を要請。来年の通常国会に、ブロッキングを手続きとして定める法案を提出する方針を示していた。

◆委員の半数、異例の反対 憲法違反の懸念ぬぐえず

 政府が方針を定めた海賊版サイトへの接続遮断(ブロッキング)の法制化に対し、追認することが多い有識者会合で、委員の半数が反対を表明して結論を持ち越す異例の展開となった。通信の秘密などを定めた憲法を侵害する恐れがある大問題なのに、議論の経緯が不透明で拙速だったツケが回っている。

 菅義偉官房長官は今年三月に突如、海賊版サイトのブロッキングを検討すると表明した。それから一カ月もたたないうちに、政府はプロバイダーにブロッキングを要請。さらに、今回の有識者会合を経て遮断の制度化まで進めようとしたが、制度に慎重な法学者やプロバイダー事業者らが委員に加わったことで、政策の不透明な決定過程や憲法上の問題などが鮮明となっている。

 政府はブロッキングが必要な根拠として、著作権侵害による被害額が三千億円にのぼることを挙げている。だが、この数字は、信ぴょう性が疑われている民間企業の統計が基だ。ブロッキングが実施されれば、巨額の費用が新たに発生し、利用者の負担になる恐れがある。遮断を回避する策があるため効果も疑問だ。

 ブロッキングが違憲とならないためには、ほかに可能な対策を尽くすことがまず必要だ。取りまとめ案には、権利者とプロバイダーなどが加わる協議体をつくるなど新たな対策が入った。その結果も検証せずにブロッキングを進めようとする政府に対し、森亮二弁護士は「法制化ありきではないか」と不信感をあらわにする。 (吉田通夫)

 

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