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【NIE】

<新聞から学んだこと 加藤寛一郎>辞書から学ぶ

投手と野手を両立する日本ハムの大谷翔平選手

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 二刀流という言葉をしばしば目にする。「二刀流の行方」「二刀流の覚悟」など。プロ野球・日本ハム大谷翔平選手の投打に渡る活躍の影響である。

 二刀流は二つの技能に優れる意味で用いられている。例えば昨年十一月十二日の東京新聞に、こんな一文がある。「『二兎(にと)を追う者は一兎(いっと)をも得ず』ということわざもあるが、今季の大谷選手は、投手と打者を両立した」

 二刀流と二兎を追うことは違うのではないか。『広辞苑』によれば、二刀流は「宮本武蔵の創始した剣術の一派」である。二刀を使い分けるが、刀を振るう部分は共通する。

 剣道を囓(かじ)った経験から言えば、二刀流のイメージは極度に難しいことである。野球に例えれば、バットを片手で振って両腕で振るのと同じ打球を飛ばし、その技を左右両腕に仕込む。そういう流儀である。

 宮本武蔵は吉川英治の長編小説の主人公として名高い。講談社刊の『宮本武蔵』を調べてみた。武蔵は「二本の手が各々(おのおの)あるだけの力を出す」点に、二刀を使う利を認めていた(二天の巻「もののあわれ」の章)。不肖私の考えに近いように思える。

 もう一冊、『新明解国語辞典』を調べた。新聞書評で買って“積ん読”状態だった佐々木健一著『辞書になった男』(文藝(げい)春秋刊)から、新明解が「独特の語釈で知られる」ことを知っていたからである。

 ここでは二刀流は、「左右の手に刀を持って戦う剣術の流儀、俗に、甘いもの(菓子)も辛いもの(酒)も好きな意に用いられる」と書かれていた。用例に驚かされたが、二刀を二兎の意味に使ってもよいと悟った。疑問は解決した。

 改めて、『辞書になった男』をめくった。冒頭近く、次の引用が目に入った。

どくしょ【読書】〔研究調査のためや興味本位ではなく〕教養のために書物を読むこと。〔寝転がって読んだり、雑誌・週刊誌を読むことは、本来の読書には含まれない〕(『新明解』初版)

 確かに独特の語釈のようだ。その少しあとに、次の引用が示されていた。

いっきに【一気に】「従来の辞典ではどうしてもピッタリの訳語を見つけられなかった難解な語も、この辞典で一気に解決」(『新明解』四版)

 なるほど!

 (東京大名誉教授・加藤寛一郎)

 

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