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【NIE】

<新聞から学んだこと 加藤寛一郎>人工知能との共存

29連勝の新記録を達成した藤井聡太四段。将棋ソフトを活用し腕を磨いたという

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 中学生棋士の藤井聡太四段が六月二十六日、デビューから将棋公式戦二十九連勝の新記録を樹立した。新聞には「将棋ソフトで研究」「ネット活用、成長加速」などの見出しが躍った。

 藤井四段は当初、序盤・中盤に弱点があったらしい。そこへ人工知能(AI)を活用した。師匠の杉本昌隆七段によれば「こんなに早く弱点を修正して強くなるとは思わなかった」(六月二十二日産経新聞)

 記録達成に先立ち棋界には大きなできごとが二つあった。五月二十日、将棋AI「ポナンザ」が佐藤天彦名人を破り、四月の第一局と合わせ二連勝。続いて五月二十三〜二十七日、囲碁AI「アルファ碁」が世界最強とされる中国の柯潔九段に三戦全勝した。これらはボードゲームの世界で「人間からAIへの覇者交代を強烈に印象づけた」(六月九日朝日新聞)。

 これらAIソフトは、膨大なデータ(この場合は対戦記録)に潜む特徴をコンピューターが自ら学習する。人間はその経緯を理解する必要がない。実際ポナンザやアルファ碁の制作者は、専門棋士ではない。そのためしばしば「人間にはその手がなぜ好手なのか、理由がわからない」と言われた。

 ところがである。いま将棋界では、プロの強さをしのぐソフトを、誰でもインターネット上でダウンロードできる。藤井四段もその一人だが、局面の判断や指し手の評価にAIソフトを利用する棋士は多い。

 囲碁界では、アルファ碁を開発したグーグル傘下の英ディープマインド社が、アルファ碁同士による自己対戦の棋譜五十局を公表。そこには常識外れとされていた手が頻出、棋士たちを驚愕(きょうがく)させた。

 そしてAIの流儀を参考にした新手が実戦で次々と使われている。それが新聞の観戦記にも現れ始めた。例えば「損を承知で局面を狭くする人工知能を思わせる道を選んだのが印象に残った」(六月十六日日経新聞、大矢浩一氏)

 いま棋界は、人間とAIが共存する状態と思う。それは棋士たちが、AIの指し手を理解した結果であろう。AIの思考過程を明らかにすることは、今後の各種応用分野で、AIと人間の共存を可能にする必須の条件のように思える。 (東京大名誉教授)

 

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