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【放送芸能】

私とは何者か ジブリ最新作「レッドタートルある島の物語」

 「思い出のマーニー」から二年、スタジオジブリの最新作はシンプルで味わいのある物語だ。海外との初の共同製作となる「レッドタートル ある島の物語」(十七日公開)。マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督は、あえて登場人物のせりふを排除し、自然と人間の関係を問い掛ける。 (鈴木学)

 「ジブリから『長編を作りませんか』と話をもらった時? 有頂天になったよ。間違いじゃないかと思って聞き直したくらいだ」。ドゥ・ヴィット監督は穏やかな笑みで振り返る。

 父娘の絆を描いた短編「岸辺のふたり」(二〇〇〇年)を見たジブリの鈴木敏夫プロデューサーからの申し出だった。構想から十年を要した作品は、嵐の海から一人の男が無人島に漂着する“ロビンソン・クルーソーもの”だ。

 自身初の長編を考えた時、かつて胸をときめかせた冒険譚(たん)が浮かんだ。しかし「ロビンソン・クルーソー」を読み返すと、人間と自然の対立がみてとれ、両者を一体化させたい自分のメッセージとは違った。映画では、脱出しようとするたびに男は島に引き戻される。不思議な赤いカメにも邪魔をされる。そして、謎の女が現れ、男は変わっていく…。自然と人とをつなぐ役割を果たすカメ。直感だったが、ミステリーさなどからピッタリだと思ったという。

 「何もないところでストーリーが展開する。もともと言葉にしないといけないことはそんなになかったんです」。せりふ以外にも男に名前はなく、島に来る前の過去も示されない。大自然の中で、そんなものは意味をなさないと言いたいかのようである。

 こだわりの光の表現とともに印象的なのが津波だ。家族を持ち、島に落ち着こうとした男を津波が襲う。東日本大震災の発生でこのシーンをやめることも提案したが、ジブリの返答は「デリケートな問題だが、人も自然の一部ということがテーマ。このままでいいのでは」。一方で、月夜の下でのロマンチックなシーンを差し替えたところ、アーティスティック・プロデューサーの高畑勲監督が「すてきなのにやめるの?」と指摘、再考し復活させた。

 本作は、今年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で特別賞を受賞した。キャッチコピーの「どこから来たのか どこへ行くのか いのちは?」は気に入っているが、できるなら「一体、私は何者なのか」を付け加えたいという。

 「映画のような状況に陥った時には、自分は何者なのか、何ができるのかという問いが浮かぶと思う。ただ難しく考えすぎず作品に気持ちを委ねてほしい」。真っすぐな視線で訴える。

<マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督> 1953年、オランダ生まれ。主にイギリスを拠点にして短編アニメ映画を中心に活動している。「お坊さんと魚」(94年)はオタワ国際アニメ祭審査員特別賞、「岸辺のふたり」はアカデミー賞の短編アニメ賞を受賞。

 

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