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【放送芸能】

鬼平 いざ新時代 吉右衛門版ドラマ 28年で幕 来年アニメ化である

 歌舞伎俳優中村吉右衛門さん(72)が主演し、民放地上波に残る最後の本格時代劇とされた「鬼平犯科帳」が12月2、3日放送のスペシャル番組で28年の歴史に幕を下ろす。作家池波正太郎さん(1923〜90年)の人気小説を原作とする同作は、善悪で割り切れない心の機微や、義理人情を描いた「大人の時代劇」としてファンの心をつかんできた。原作の連載開始から50年となる来年、時代劇に代わるアニメ番組が登場。時代を超えて生き続ける「鬼平」に迫った。 (中村陽子、前田朋子)

◆悪党にも光

 原作は1967年から90年まで小説誌「オール讀物」(文芸春秋)に連載された。テレビドラマのほか、映画や漫画にもなり、文庫版(全24巻)は今も毎年、増刷されるなど人気は健在だ。

 「一番の魅力は、矛盾に満ちた人間の真の姿を描き出しているところでしょう」。時代小説に詳しい文芸評論家の縄田一男さんは説明する。ハードボイルドでありながら優しさを兼ね備えた鬼平の生き方を追う一方で、部下として働く者、まっすぐに人生を歩めない悪党たちにも光を当てる。

 <善事をおこないつつ、知らぬうちに悪事をやってのける。悪事をはたらきつつ、知らず識(し)らず善事をたのしむ。これが人間だわさ>

 鬼平の有名なセリフに、単純な勧善懲悪の物語とは一線を画した洞察が垣間見える。

 おいしそうな食事、四季の景色の変化など、江戸の暮らしが丁寧に描かれているのも特徴の一つ。「独特のリズムがある文章。読んでいるだけでおなかが減ってくる」と縄田さん。「どういうメディアになっても通用してしまうすごい作品で、熱烈なファンが多い。ドラマの出来が良かったこともあって、原作と比べたり、役者による演じ方の違いを比べたりして楽しんでいる」と指摘する。

 <火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)、長谷川平蔵である>

 吉右衛門さん演じる鬼平が、渋い決めぜりふと共に悪を討つドラマは、1989年7月にフジテレビで始まった。連続ドラマとしては2001年5月の第9シリーズで終了、05年からは単発で12本が放送された。

◆原作に忠実

 吉右衛門さんの鬼平は4代目。初代は実父の八代目松本幸四郎(後の白鸚)さんで、池波さんはもともと幸四郎さんをモデルに、江戸時代に実在した平蔵のキャラクターを肉付けし、小説を書いた。1969年に始まった幸四郎版の鬼平はまさに当たり役。その後、鬼平役は丹波哲郎さん、萬屋錦之介さんと受け継がれた。錦之介版まではテレビ朝日での放送だった。

 吉右衛門版の放送が始まって1年後、池波さんが亡くなる。「原作にないものはやってくれるな」との遺志を引き継ぎ、その後は残された作品を組み合わせたり、過去作にアレンジを加えたりして乗り切ってきたが、その作業もいよいよ限界となり、吉右衛門さんの意向もあって放送終了を迎えることになった。

 これまで放送された吉右衛門版の平均視聴率は15.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。来月2、3日放送の「THE FINAL」がちょうど150本目となる。

◆生誕50周年

 シリーズ誕生50周年を記念して制作されるアニメ「鬼平」は毎週月曜深夜にテレビ東京で放送される。

 登場するのは8頭身で若々しい風貌の鬼平。原作の版元である文芸春秋の担当者は「現在の読者層の中心は中高年の男性。これを若い女性にまで広げていきたい」と狙いを明かす。

 長年親しんできたファンが「これは違う」とがっかりする懸念もあるが、担当者は「魅力にあふれる鬼平の世界が、次の世代まで読み継がれていくことが重要と考えた」と話す。原作の世界観を壊さず、ストーリーも変えない方針で、脚本が練られているという。

 「武士道は欧米でも人気がある。日本のサムライの物語として、海外での展開にも期待している」と担当者。半世紀を過ぎても、鬼平の活躍は続きそうだ。

◆吉右衛門 平蔵を語る

 「悪を倒すだけでなく、悪の中の善を見いだして更生させるなど、人として、すばらしい。平蔵みたいになれたらいいなといつも思っていた」。吉右衛門さんは長年の分身ともいえる鬼平への思いを明かす。

 池波さんから最初に依頼されたのは四十歳のとき。しかし、このときは「まだ小僧っ子の自分にはかなわない」と固辞したという。「池波先生や父の世代は、関東大震災と戦災をくぐってたくましく生きてきて、どっしりした大人の雰囲気があった」と振り返る。四十五歳で再び池波さんから声を掛けられ「二度もご指名をいただき、お引き受けいたしました」と話す。

 原作の魅力を吉右衛門さんは「日本のハードボイルド」と評する。「池波先生はせりふをすごく大事にされる方。短くポツリと言うせりふがとても的を射ていて、これ以外ないというものを書かれていた」

 年を重ね、原作の求める激しいチャンバラが難しくなったことも今回の決断を促した。テレビから消えようとする時代劇については「撮影所の環境が整わなくなってきた。だが、現代劇のようなリアルを離れて、ある程度、夢を膨らませて現代では考えられない男女や主従、友情を描くことができる。時代劇はなくならないのではないか」。

 <鬼平犯科帳 THE FINAL> 12月2、3日とも午後9時スタート。前編「五年目の客」には若村麻由美さんや谷原章介さんがゲスト出演。後編「雲竜剣」は田中泯(みん)さん、さだまさしさんらが花を添える。娘婿の尾上菊之助さんの共演も注目だ。

 <アニメ放送> 初回は1月9日深夜(10日午前2時5分)スタート。全13話

 

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