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【放送芸能】

チェス、将棋に続き…囲碁AI ついに人間超え!?

 チェスや将棋など対戦型ボードゲームで、コンピューターが人間を圧倒しつつある。盤面の広さや打ち手の多さから人間の「最後の砦(とりで)」とされてきた囲碁でも、人工知能(AI)の発達によりプロ棋士が敗れる場面が現実に。先月下旬に行われた「第二回囲碁電王戦」の三番勝負では、日本の囲碁ソフトが囲碁界の重鎮、趙治勲(ちょうちくん)名誉名人(60)を相手に一勝を挙げた。進化するAIに人間が白旗を揚げる日は近いのだろうか。 (樋口薫)

◆衝撃

 第一局が始まって約一時間。日本の囲碁ソフト「Deep(ディープ) Zen(ゼン) Go(ゴ)」の序盤の打ち回しを見て、立会人を務めたトップ棋士、張栩(ちょうう)九段(36)が漏らした一言に衝撃が走った。「美しい碁を打っている。僕よりちょっと強そう」

 Zenには、局面ごとに自らの勝率を分析する機能がある。中盤の時点で、67%と強気の数字をはじき出した。「何をやっちゃったんだ」「イタタタタ」。苦戦する趙名誉名人からぼやきがこぼれる。しかし終盤、異変が生じる。Zenに消極的な手が出始め、ついには悪手を連発。程なく開発者の加藤英樹さん(62)が投了を告げた。

 第二局では、Zenの棋風が明らかになってきた。碁は通常、相手の石を囲いやすい隅に陣地を確保するのが基本だが、Zenは広い中央部に勢力圏を築こうとする。解説の高尾紳路(しんじ)名人(40)も「自分の対局にも生かしたい」と感心する。終盤、秒読みに追われた趙名誉名人にミスが出て投了。国産ソフトの記念すべき初勝利だった。

 第三局は趙名誉名人が貫禄を見せ、勝ち越しを決めた。しかし対局後の記者会見では「これからめちゃくちゃ強くなる」と、Zenの将来性を高く評価した。

◆学習

 Zenは今年三月の時点で、あらかじめ三つの石を置くハンディ戦でプロといい勝負をするアマ高段者並みの棋力だった。わずか八カ月で、ハンディなしで勝てるほどの強さを身につけたことになる。

 その秘密はAIの先端技術「ディープラーニング」にある。脳神経細胞を模した機械に大量の画像データを学習させ、人間でも判別できないほどのわずかな違いを見分けられるようにする技術。膨大な量の棋譜の画像を学習することで、局面ごとに白と黒のどちらの勝率が高いか、自ら判断できるようになった。

 米グーグル傘下のディープマインド社が開発した「アルファ碁」が学習した局面は三千万、Zenは数百万に上るという。

 今回、ソフトの強さが際立ったのが序盤戦だ。人間の定石にないZenの手にうなった趙名誉名人は、その驚きを「写実的な絵をいいと思っていた人が、ピカソの絵を見せられたような気持ち」と例えた。「囲碁の序盤は創造の世界。機械より人の方が優れていると思っていたが、そうではなかった」

 加藤さんは「中終盤の複雑な局面より、序盤の静かな局面の方がディープラーニングの効果が出る。これは囲碁の局面の多さに対し、学習量が全然足りていないため」と説明する。今後、より多くの棋譜を学習すれば、さらに棋力が上がる可能性が高い。

◆油断

 一方で、弱点も明らかになった。第一局終盤で崩れたのは「リードすると『安全モード』に入り、損な手を打ってしまうため」(加藤さん)。柔軟性に乏しく、劣勢の時に挽回を狙う勝負手を打ったり、勝負どころで時間を使って考えたりといった判断ができない。先行するアルファ碁との実力差も大きく、今年三月時点のバージョンと戦っても勝率は一割以下だという。

 来年三月、日中韓のトップ棋士三人とZenが総当たりで戦う「ワールド碁チャンピオンシップ」が行われる。日本からは第一人者の井山裕太六冠(27)が出場予定。直接対決までにZenがどれだけの進化を見せるのか、注目が集まる。

◆開発の歩みと現状 

 コンピューターの実力が向上し、チェスでは既に人間がハンディをもらっても勝つのは難しい状況だ。将棋でも人間は劣勢にある。今春で5回目となった「将棋電王戦」では、予選を勝ち抜いたプロ棋士代表の山崎隆之八段(35)がソフトに2戦して2敗。進化するソフトに完敗だった。

 盤面が広い囲碁(19×19)は、チェス(8×8)や将棋(9×9)よりも打ち手の選択肢が多いため、コンピューターが最善手を探すのが難しいとされてきた。ところが今年3月「アルファ碁」が世界トップ棋士の1人、イセドル九段(韓国)を破ったことで激震が走った。

 「Deep Zen Go」は「打倒アルファ碁」を掲げ、同月にプロジェクトを開始。既存の強豪ソフト「Zen」に、IT企業ドワンゴと東京大のAI研究者らが参加してディープラーニングを導入し、棋力向上を目指してきた。

 将棋や囲碁は偶然や運に左右されない「完全情報ゲーム」とされるが、AI研究は今後、人間との駆け引きを必要とする「不完全」のゲームにも向かう。参加者の中に潜んだオオカミ役を探り当てる「人狼(じんろう)ゲーム」では、研究者は人間との対話を通じて、うそを見抜いたり、だましたりできるAIの開発を進めている。

 

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