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【放送芸能】

幸せを買いたくて 映画「ブランカとギター弾き」

 日本人で初めてイタリアの「ベネチア・ビエンナーレ&ベネチア国際映画祭」から全額出資を受けた長谷井宏紀(こうき)監督(42)の初長編作品「ブランカとギター弾き」が二十九日、東京・シネスイッチ銀座で公開される。フィリピンのスラム街で暮らす孤独な少女が盲目の老ギター弾きとの交流を通して、お金より大切なものがあることを知る感動作。「路上に生きる子どもの視点を借りて作った小さな映画を日本のみなさんにも見てほしい」と訴える。 (深井道雄)

 盗みや物乞いをして路上で暮らす身寄りのない少女ブランカ(サイデル・ガブテロ)は自分にも母親がいれば幸せになれると思い込み、母親を金で買うことを決意する。街で出会った盲目のギター弾きピーター(ピーター・ミラリ)の伴奏で、得意の歌を披露するブランカ。二人はレストランに雇われ、ステージに立つ。収入を得て、寝る場所もでき、ブランカの計画は順調に進むかに見えたが…。

 二十代の初めごろからスチールや映像製作の仕事で海外を取材してきた長谷井監督。「二十八歳から四、五年、クリスマスの時期に文房具などのプレゼントを持ってマニラのスモーキーマウンテンと呼ばれるごみの山に通いました。ボランティアなんて意識はなく、ストリートチルドレンらとごみでクリスマスツリーを作ったりして。彼らのたくましさに衝撃を受け、ここを舞台に映画を作ろうと思ったんです」と動機を話す。

 さらに「言葉にすると照れますが、ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領の『貧しい人とは少ししか持ってない人ではなく、いくらあっても満足できない人』という言葉が好きで、プライドを持って生きる彼らを登場させることで、そんな思いを訴えられると思った」と続けた。

 母親を買うという突拍子もない計画を軸に物語は進む。「金さえあれば何でも買えるという現代の風潮って、どうなのかという思いがありました」と長谷井監督は明かす。車や家、犬や猫、もしかしたら妻や夫でさえも金次第で手に入る時代。そんな時代に監督は疑問を抱く。「買えないものの象徴に母親を置き、障害や貧しさを苦にしないピーターとの触れあいを通し、ブランカに金では買えないものが存在し、その大切さに気づかせようと考えた」

 ブランカ役のガブテロはネット上で素人の歌姫として話題となっていたが、それ以外のメインキャストはマニラのスラム街でスカウトした。「爪の先、あか、しわにも生活が出る。彼らでないとリアリティーがないと思った」と話す。

 二〇一五年九月のベネチア国際映画祭などヨーロッパ各地で高い評価を受けた。「温かい気持ちになるといった感想を言ってもらい、励みになっています」

<はせい・こうき> 1975年、岡山市生まれ。20代から世界各地で映像、スチール作品を製作。2009年、フィリピンのストリートチルドレンを追った短編「GODOG」がエミール・クストリッツァ監督主催の映画祭でグランプリを獲得。

<ベネチア・ビエンナーレ> イタリアのベネチア市内の各所を会場として、1895年から2年に1度開かれている芸術の祭典。美術部門のほか、建築や舞踊、音楽、演劇など各部門があり、毎年開催されるベネチア国際映画祭は独立部門の一つ。

 

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