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【放送芸能】

倍賞千恵子 ずっとさくらは私の中に 来月2日から特集上映

 映画「男はつらいよ」シリーズで寅(とら)さんの妹さくらを演じるなど、庶民派女優として人気の倍賞千恵子さん(76)の特集上映が9月2〜29日、東京・神保町シアターで開かれる。「男はつらいよ」第1作(1969年)など17本を用意。「神保町シアターは映画を愛する人たちが足を運ぶ映画館。映画は映画館で見てこそ面白いことを再確認していただけたら」と来場を呼び掛けている。 (鈴木学)

 倍賞さんは松竹歌劇団(SKD)在籍時に中村登監督に見いだされ、六一年に映画「斑女(はんにょ)」でスクリーンデビュー。現在まで出演映画は百七十本に上り、芯の強い女性像を体現し、テレビドラマや、歌手としても活躍してきた。

 特集上映では「男は−」「斑女」のほか、初主演作「下町の太陽」(六三年)や「遙(はる)かなる山の呼び声」(八〇年)などをラインアップ。「雲がちぎれる時」(六一年)「酔っぱらい天国」(六二年)「あいつばかりが何故(なぜ)もてる」(同)の三本は倍賞さん自身が選んだ。

 「あいつばかりが−」では、後に「男は−」で兄妹を演じる渥美清さんと共演。渥美さん演じるすりの男にほれられる大学生役で「それが後々、兄妹役になるんだからね」。遠い目をした顔が和らぐ。

 出演映画の三分の一は「男は−」など山田洋次監督の作品。「『もっともっと何かあるはずだ』と、いつもそう思いながら撮影している人。そして庶民をきちんと描く人」と山田監督を評する。これまで演じてきた役の中でもやはり「さくら」は特別といい「死ぬまで、私の中にさくらさんが生き続けているんでしょうね」としみじみ語る。

 自らの演技への評価は厳しく「『違う演じ方があったんじゃない、千恵子さん?』って思うの。悪女役があまりない? 私の本質は悪女だと思うんだけど、そういうことに気が付かないから違う役ばかり出演依頼が来るのかな」と笑う。

 今年は東京・柴又駅前にさくら像が設置され、半世紀にわたる芸能人生を振り返った自著「倍賞千恵子の現場」(PHP新書)も刊行された。「普段は前ばかり見ている方ですが、猪突(ちょとつ)猛進ではなく、時々後ろを振り返って確認しながらほどほどに自分をいたわり、歌い続け、演じ続けていきます」と話している。

◆女優人生の思い出語る 

 倍賞さんがこれまでの歩みを振り返り、共演した渥美さんや高倉健さんとの思い出を語った。

 −SKDに入ったものの、すぐにスカウトされて女優の道へ。

 「来月から松竹の映画に行くことになったからね」と先生に言われ「はい、分かりました」って。内心では「えっ、映画」と思っていました。それまでは広い舞台で踊っていたから「ここに立って、ここを見て、相手だと思ってせりふを」と言われるのが嫌でね。終わると江の島に行って「映画なんか嫌いだー」って叫んで憂さ晴らし。でも、その撮影が終わる前には次作の台本を渡されていました。

 −出演した約百七十本のうち四十八作が「男はつらいよ」。

 人の生き方とか価値観とか、失われつつある人情とか…。山田さんの作品を通して大切なことをたくさん学びました。役者としても、人間としても。私にとっては学校みたいなものかもね。「男はつらいよ」で、さくらさんに出会えて本当によかったと思っています。あんなに長く続くと思ってなくて、山田さんも「こんなにヒットするなら、さくらさんを早く結婚させなきゃよかった」と言ってました。

 −渥美さんとのやりとりはキャッチボールのようで。

 ぽんと投げると、ぽんと返ってくる。テンションがどんどん上がると、ある瞬間、はじけて大笑い。そういうことは他の俳優さんとはなかった。

 −寂しさや悲しさが渥美さんの演技にあった。

 若いころに肺結核を乗り越えた人だから。面白いことをやっていても、細い目の奥に人間の寂しさみたいなものがありました。だから本当に怒ると怖かったですよ。「おまえ、違うだろ」って。

 −「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」(山田監督)などで高倉健さんと共演。

 喫茶店で打ち合わせをしていると、健さんが突然、腕時計を外して目の前のお水に入れちゃった。「何するんですか」と聞いたら「防水です」って。いたずら好きな方で私の緊張をほぐしてくださったんですね。

 −「駅 STATION」で「舟唄」が流れる居酒屋の名シーンは約十分の長回しで撮影した。

 終わったと思ったら、大ちゃん(撮影の木村大作さん)が「反対からいきます」って。(カメラアングルを変え)三回ほど撮った。毎回同じことができたのか、いまだに分からないんですけどね。

 −「庶民派女優」と呼ばれることも。

 きれいなバラや、お高〜い花じゃなくて、すみれみたいな花。前掛けが似合う女優というか、そういうことを理解して演じることができる女優かな。人間としてどう生き、どう人を捉えているかを表現できるみたいな…。

<ばいしょう・ちえこ> 1941年、東京都生まれ。61年に映画デビュー。62年「下町の太陽」で歌手デビュー。80年、映画「遙かなる山の呼び声」で日本アカデミー最優秀主演女優賞。2005年、紫綬褒章。13年、旭日小綬章。

 

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