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【放送芸能】

画家125人 6万2450枚のアニメ 映画「ゴッホ 最期の手紙」

 ゴッホの油絵が動きだす−。十九世紀の天才画家フィンセント・ファン・ゴッホの謎の生涯に迫る映画「ゴッホ 最期の手紙」(ドロタ・コビエラ、ヒュー・ウェルチマン監督)が公開された。世界で初めて全編が油絵で描かれたアニメーション作品で、日本人を含む百二十五人の画家が集結。ゴッホのタッチをまねて描かれた油絵は、なんと六万二千四百五十枚。動く油絵が観客をゴッホの世界に誘う。 (猪飼なつみ)

 一八九〇年に三十七歳で亡くなったゴッホは、最愛の弟テオへの手紙で「われわれは自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」と書いている。その言葉を受け、映画はゴッホの絵に語らせようと作られた。ゴッホが描いた風景や建物の中で、肖像画の人物らが動きだす。

 ゴッホは銃で自らの腹部を撃って自殺したとされるが、物語はその死に隠された真相に迫る。郵便配達員の父からゴッホ最期の手紙を託されたアルマンが、画材商のタンギー爺(じい)さんや医師のポール・ガシェらに会い、真実を探っていく。

 映画はまず、肖像画の人物と似た俳優が絵画と同じ格好をして実際に演技し撮影。背景はゴッホの絵画に似せたセットにしたり、後にCGで合成したりした。この映像をキャンバスに投影し、画家たちがゴッホのタッチをまねて油絵にする。動きに合わせて少しずつずらして描き、通常のアニメは一秒当たり二十四コマで作るが、本作は十二枚の油絵を使った。

 百二十五人の画家は、世界中から応募があった五千人以上の中から選ばれた。日本人で唯一選ばれたのは兵庫県出身の古賀陽子さん(31)。昨年四月に募集を知り「サンプル動画を見て、これは絶対にすごい映画になると思った」と語る。

 翌五月にポーランドで行われた一次試験では、三日間でゴッホのタッチをまねて課題のシーンを描いた。六月には三週間のトレーニングも受けた。「もともとゴッホの作風を目指していたわけではないけれど、描いてみて驚いた。ランダムに見えてリズムがあり、一筆にかける情熱や、色彩と表現の幅広さに気付いた」と振り返る。

 そのままポーランドに残り、約四カ月間、絵を描き続けた。それぞれ担当の場面を振り分けられ、古賀さんが担当したのは、オーヴェールの教会やカラスが雲間を飛んでいるシーン、酒を飲む人々の場面だった。

 制作スタジオでは個室が与えられ、古賀さんは週に五〜六日、近くのアパートから通って毎日十時間ほど描き続けた。「個室の広さは四畳くらいで、日光が入ると色彩感覚が変わってしまうから窓もない。夜一人で残っていると怖かったですよ」と笑う。

 担当したカラスが飛ぶ場面は、途中でカラスの色を黒から青に変えるように言われ、最初から何十枚も描き直した。教会の絵はゴッホの本物の絵のように「かすれ具合もすべて再現して」と言われてやり直した。

 「もうだめだと思うこともあったけれど、この映画の完成が楽しみで、参加できているのは画家として幸せなんだと奮い立たせていた」と振り返る。

 古賀さんの絵は映画の中で二百九十枚(五百八十コマ)が使われ、長さでいえば一分弱。完成した映画を見て「一瞬だったけれど、苦労が実ったと思うとうれしかった。ストーリーもすばらしくて、ゴッホの不器用さと純粋さ、その魅力が分かる思う」と笑顔を見せる。

◆声で出演 イッセー尾形

 日本語吹き替え版で、アルマンの父で郵便配達員のルーランの声を担当したのは、俳優イッセー尾形さん(65)。もともとゴッホのファンで、ゴッホを題材に人形劇まで自作している。尾形さんに聞いた。

 −映画を見た感想は。

 圧倒されました。まず英語版を見て、どうやって作ったんだろうと気になり、徐々に物語に引き込まれていった。

 −ゴッホに思い入れは。

 さみしい絵が多いけれど、一筆一筆の力強さでそのさみしさに打ち勝ち、浮世絵に憧れて明るい色彩を手に入れ、世界を広げていった。その成長まで目がいってしまう画家は、ゴッホくらいなんですよね。

 −それでゴッホの人形劇を作ったのですか。

 5年くらい前に、そのドラマチックな日々を人形劇にしようと思って。ゴッホといえばゴーギャン、そしてそれを引いて語る人としてルーランを登場させて楽しんでいたんです。

 だから、ルーラン役の仕事が来て驚きました。映画を見て、ルーランは僕が思っていた以上に、ゴッホに対して愛情を持ち、その死を悔やむ思いがあったのではないかと教わりました。

 −最後にPRを。

 浮世絵や日本に憧れていたゴッホにとって、日本での公開は、他のどの国より望んでいたと思う。全編見どころだけれど、自分だけの見どころを見つけてほしい。きっとゴッホはそう言うと思います。

<公開中> 映画は三日からTOHOシネマズ 六本木ヒルズなどで公開。美術展「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」は東京都美術館で来年一月八日まで開催中。

 

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