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【放送芸能】

高麗屋三代同時襲名 父から子へ そして孫へ

 父から子へ、子から孫へ、受け継がれる伝統と進取の気性−。二日に開幕した東京・歌舞伎座の「寿 初春大歌舞伎」で、江戸歌舞伎からの名門・高麗屋(こうらいや)(松本幸四郎家の屋号)の三代同時襲名が行われた。松本幸四郎(75)が「二代目松本白鸚(はくおう)」を、長男の市川染五郎(44)が「十代目松本幸四郎」、染五郎の長男松本金太郎(12)が「八代目市川染五郎」をそれぞれ名乗る。歌舞伎座開場百三十年の年頭を飾る慶事となった。 (安田信博)

 高麗屋の三代同時襲名は一九八一年以来、三十七年ぶり。四百年を超える歌舞伎の歴史でも直系の親・子・孫の同時襲名はそれまで例がなく、今回が二度目の祝い事となった。

 二代目白鸚は「名前を立派に受け継げる息子と孫がいる。奇跡に近い思いでいっぱい」と喜びをかみしめる。父の初代白鸚(八代目幸四郎)は八一年十、十一月の襲名披露興行の一カ月余り後、病のため七十一歳で亡くなった。二代目白鸚は今回の襲名にあたり「亡き父の私への思いやり、心遣いのようなものを感じる」と思いをはせる。

 この日演じたのは昼の部(午前十一時開演)の「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ) 寺子屋」で忠義のためにわが子を犠牲にする松王丸。「白鸚は違うとお客さまに感じていただけるような松王丸をご覧に入れたい」と意欲を示す。

 歌舞伎座の二月興行では「仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場」で、大石内蔵助に当たる大星由良之助をつとめる。嫡男の大星力弥役を孫の八代目染五郎がつとめることに「三十七年前に父が孫(十代目幸四郎)と一緒にやった役を今回、私も孫とできる。いろいろな思いがこみあげてくる」と感慨深げに語る。

 四月には建て替えられて再開場する名古屋・御園座のこけら落とし公演で、家の芸である「勧進帳」の武蔵坊弁慶を演じる。これまで全都道府県で一千百回以上もつとめた当たり役だ。最後に片手を大きく振って勢いよく足を踏み鳴らしながら花道を引っ込む「飛び六方」は、弁慶役の大きな見せどころで、体力も要求される。

 「さらに自分を磨き、勉強して前に進み続けたい」と決意を新たにする。

 十代目幸四郎はこの日の昼の部で「菅原伝授手習鑑 車引」の松王丸、夜の部(午後四時半開演)で「勧進帳」の弁慶をつとめた。弁慶を演じるのは二度目だ。「いきなり一番高いハードルで始まるが、これほど幸せなこともない。自分がつとめるべき役であると暗示、プレッシャーをかけて演じたい」と意気込む。

 決して順風満帆だったわけではない。二〇一二年に国立劇場(東京)の舞台から転落して大けがを負い、当初は舞台復帰も難しいとされた。「あの事故で舞台への思いは一層強まった。今回の襲名は自分が目指したものが認められたのかと驚くほど感動した。わずかながらも親孝行できたのではと思う」と振り返る。

 偉大な父を持つ重圧。「父を超えていくことが親孝行だと思っていたが、今は超えられないと思っている。ずっと父の背中を追いかけていきたい」

 この日の「勧進帳」の義経役で共演した息子の八代目染五郎には「本当に芝居が好きで、やる気を感じる。僕を目標とせず、すごいところを目指してほしい」と期待を寄せる。中学一年の染五郎は、いつか弁慶を演じたいと願う。「見た目の強さ、男らしさ、心の優しさに引かれる」という。

 白鸚は二人について「役者の素質、個性、魅力はそれぞれ違う。精進して自分の芸をつくっていく。それが歌舞伎の(芸の)継承」とエールを送る。

◆進取の気性 挑戦は続く 高麗屋の歩み

 高麗屋は、一六七四年に下総国(千葉県)に生まれた初代松本幸四郎(一七三〇年没)によって創始された。門閥に属さない身で精進を重ね、二代目市川団十郎と人気を二分。初代幸四郎の養子に入った二代目は二代目団十郎の実子ともいわれ、高麗屋はその後も団十郎の「成田屋」と親密な関係を持ち続けた。

 一八四九年に六代目が早世した後、幸四郎の名跡は一時途絶えるが、一九一一年に九代目団十郎の門下であった八代目市川高麗蔵が七代目幸四郎を襲名。恵まれた体を生かした「勧進帳」の弁慶は当たり役で、生涯を通じて約一千六百回も演じた。

 高麗屋に受け継がれる進取の気性は、この七代目のころから見て取れる。一九〇五年に初の日本製オペラ「露営の夢」やシェークスピア劇に出演。七代目の次男、八代目幸四郎(初代白鸚)も文学座の舞台などに挑んでいる。

 そのパイオニア精神を受け継いだ九代目(二代目白鸚)は、ミュージカル「ラ・マンチャの男」や現代劇「アマデウス」などに果敢に挑戦。当代幸四郎も最新テクノロジーを駆使した米ラスベガスの歌舞伎公演を実現、フィギュアスケートとのコラボ公演など歌舞伎の活性化に尽力している。当代幸四郎は「高麗屋のイメージは挑戦者」と語る。

◆猿之助が復帰

 昨年十月、舞台出演中に左腕を骨折し、休養していた市川猿之助(42)がこの日、東京・歌舞伎座「寿初春大歌舞伎」の昼の部「菅原伝授手習鑑 寺子屋」に出演、約三カ月ぶりに復帰した。猿之助は劇中で「けがはもう大丈夫か」と尋ねられ「めでたい襲名の舞台に出るために精を出して、一生懸命リハビリしたんじゃ」と返答。客席が大きな拍手と歓声で沸いた。

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