東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【放送芸能】

米アカデミー賞 あす発表 映画コメンテーター有村昆さん「対になる作品を見比べて」

 第九十回米アカデミー賞が四日(日本時間五日)、ロサンゼルスで発表される。最多十三部門でノミネートされた「シェイプ・オブ・ウォーター」をはじめ、八部門の「ダンケルク」、六部門の「スリー・ビルボード」と「ファントム・スレッド」「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」に注目が集まる。映画コメンテーター有村昆さん(41)が映画の見どころと主要部門の展望を予想する。 (猪飼なつみ)

 「対になるような作品で、見比べると面白い」と有村さんが話すのは、作品賞にノミネートされた「ウィンストン・−」と「ダンケルク」。第二次世界大戦でフランス北部の海岸に追いつめられた英国軍の撤退作戦を描いており「両方見ると、当時のナチスの勢いやヨーロッパの危機的状況がよく分かる」と解説する。

 注目の作品賞については「監督、脚本、俳優すべての質の高さが求められる。一番バランスが良いのは『スリー・−』。フランシス・マクドーマンドの主演女優賞とセットで受賞するでしょう」と断言する。「絶望の中の物語なのに、途中からダークユーモアの世界になる。最も展開が読めず、大人が楽しめる作品」と評価する。

 「シェイプ・−」との一騎打ちも予想されるが、「デル・トロ監督は世界観の癖が強いから総合力の作品賞では意見が分かれる。でも監督賞は受賞するのでは」と分析する。

 主演男優賞は「ウィンストン・−」のゲイリー・オールドマンが本命。対抗馬に「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメを挙げる。主演女優賞の本命マクドーマンドに対しては「レディ・バード」のシアーシャ・ローナン。ただし「シャラメも、ローナンも思春期の美しい時期を切り取った作品だけど、その一点突破で受賞は難しい。役者として幾千もの経験を積んできたオールドマンの技のレパートリーはすばらしかった」と絶賛する。

 「アイ ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」で主演女優賞候補のマーゴット・ロビーにも注目。「ただのヒロインで収まらない一癖ある役がうまい。今回受賞しなくても近いうちに選ばれる」と期待する。

◆宗教や性別 人種 思想を超えて 「シェイプ・オブ・ウォーター」共感広がるか

 「シェイプ・オブ・ウォーター」は、水の中で生きる不思議な生きものと言葉を話せない女性の愛の物語を描いた。ギレルモ・デル・トロ監督(53)は「注目されるということは(作品を通して)伝えたいことを聞いてくれるということだから、とても感謝しています」と笑顔を見せる。

 舞台は冷戦下の1962年。「米国が裕福で、みんなが新しい車、家を持って希望に満ちていた。でも、政治的な問題やさまざまな差別も抱えていた」。63年にケネディ大統領が暗殺され、その後、ベトナム戦争が泥沼化して暗い時代に突入する。その直前の不穏な時代に、分断が進む現代社会を投影する。

 水中の不思議な生きものとのラブロマンスをテーマにしたのは「宗教や性別、人種、政治的思想で私たちは分け隔てられている。他人に共感できるかどうかを問いたかった」と語る。子どものころから声が出せないイライザ(サリー・ホーキンス)は、不思議な“彼”(ダグ・ジョーンズ)と言葉を介さずに理解し合う。一方、ほかの登場人物は言葉を話すことはできるが、それぞれ理解し合うべき相手と本当の意味でコミュニケーションできていない。

 “彼”のデザインには3年がかかった。「彼はモンスターではない。川の神でイライザが恋に落ちる相手。女性たちにこのデザインを美しく思うか、恋することができるか、意見を聞いて回った」と明かす。

 次に“彼”を引き立たせるための衣装や美術を作った。親日家でも知られる監督は「イライザのアパートは青色で水の中のように。壁紙は葛飾北斎の波をイメージした」と細部にもこだわった。映画の冒頭と終盤は水中の幻想的な世界が描かれる。

 これまで25年間で10作品を世に出した監督は「パンズ・ラビリンス」(2006年)でアカデミー賞3部門を受賞した。授賞式を「特別な瞬間」だと、11年ぶりの晴れ舞台を喜ぶ。「今回の作品が一番好きです。自分の思い描いていたものを完璧に、それ以上に表現できた。すごくおいしい食事を食べた後のようで、消化に時間がかかるから、監督業は1年間お休みします」と言い終えると、日本語で「ちょっと待ってて」と、ちゃめっ気を見せた。

 すべてを注ぎ込んだ作品を「美しいおとぎ話で、愛が希少なものになった現代にふさわしい映画だと思う」とPRした。

<あらすじ> 政府の機密機関で清掃員として働くイライザ(ホーキンス)は、ひそかに運び込まれた不思議な生きもの(ジョーンズ)を見て心を奪われる。トラウマ(心的外傷)で声が出せないイライザだが、“彼”との間に言葉は必要なかった。周囲の目を盗んで会いに行くが、“彼”が間もなく実験の犠牲になることを知る。

◆メーク賞候補・辻一弘さん 「ウィンストン・チャーチル」渡米 模索そして原点へ

 映画「ウィンストン・チャーチル」で、ゲイリー・オールドマンを特殊メークでチャーチルに変身させた辻一弘さん(48)は、メーク・ヘアスタイリング賞にノミネートされている。辻さんは「受賞は夢の一部だったけれど、ゴールではない。それよりゲイリーさんが主演男優賞を受賞してくれたら、自分のこと以上にうれしい」と話した。

 特殊メークに興味を持ったのは高校三年生のとき。特殊メークの巨匠ディック・スミスが俳優をリンカーン大統領に変えたのを雑誌で見てからだった。それ以来、独学で特殊メークを学び、二十六歳で単身渡米。これまで「もしも昨日が選べたら」(二〇〇六年)と「マッド・ファット・ワイフ」(〇七年)で同賞にノミネートされてきた。

 しかし、特殊メークの仕事はSFやコメディーがほとんど。「なかなかやりたい作品に巡り合えなかった。いかにも特殊メークという作品より、メークとは気付かせないようなものがやりたかった」。一二年に映画業界を退き、彫刻家として活動してきた。

 そんなとき、オールドマンから「もし一緒に仕事をしてくれるならチャーチル役を引き受ける」と直接依頼され、ディック・スミスの仕事に魅了された原点を思い出した。

 依頼を受け、オールドマンの顔や体形を写真撮影と3Dスキャンし、チャーチルの写真や映像をすべて集めて分析した。チャーチルの顔の形を粘土の彫刻で作り、鼻や顎、頬、首のピースに分けてシリコンで型を取る。それらのピースをオールドマンに張り付け、細部までチャーチルの肌の色になるように着色した。「撮影は五十日間ほどだったけれど、シリコンは一度外すと使えなくなるので、そのたびに必要でした」

 チャーチルの髪は赤毛で細かったので、赤毛の赤ちゃんの人毛を薄いレースに植え込み、かつらを作った。「かつらとは分からないように最も薄いレースを使ったので十日ほどしか持たないから、五つ作った」。体はチャーチルの独特な体形に合わせたボディースーツを作り、完成まで半年ほどかかった。

 オールドマンは撮影のたびに三時間かけてメークし、衣装を着るのに三十分を要した。その熱演を見て「メークが生かされ、すごい役者が演じて作品を作り上げてくれた。今までにない感覚だった」と振り返る。

 オールドマンとともにノミネートされ「二人とも受賞したら、やっと、お互い映画を引退できるねって冗談のように話していたんですよ」と笑顔を見せた。

<あらすじ> 第2次世界大戦中の1940年、ナチス・ドイツの勢力が拡大し、イギリスにも脅威が迫っていた。連合軍がダンケルクの海岸で窮地に追い込まれる中、就任したばかりの英国首相チャーチル(オールドマン)にヨーロッパの運命が委ねられた。ヒトラーに屈するのか、戦うのか究極の選択を迫られる。

写真
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報