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【放送芸能】

人生に役立つ! 講談は宝の山

教室で指導する神田山緑さん=東京都中野区で

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 「講釈師、見てきたようなうそをつき」。史実や伝承を巧みに脚色した物語を弁舌鮮やかに聞かせる講談が注目を集めている。聴衆を魅了する話術を仕事に生かそうとするビジネスマンや、歴史で地域おこしをしたい人たちが、講談教室の門をたたいている。そこで学ぶのは定番の軍記物や侠客(きょうかく)伝に限らず、時事ネタや身辺雑記を講談に仕立てるノウハウまで幅広い。実は何かと       。まずは一席のお付き合いを。 (神野栄子、藤浪繁雄)

◆話術ぐんぐん

 日曜の昼下がり、東京・中野の区営施設で、約四十人の老若男女が軍記物の名作「鉢の木」を、リズミカルな七五調で唱和する。通信教育の会社に勤める鍋島誠吾さん(50)は習い始めて四年。「講談の『間』とスピード感、テンポは講師の研修で話すのに役立つ」と明かす。

 庶民の掛け合いで笑わせる落語に対し、講談は著名な武将の武勇伝や政談をドラマチックに披露する。会話より地の文が中心となった読み物だ。

 二〇一三年に教室を立ち上げたのは、十八日に真打ち披露を控える神田山緑(さんりょく)さん(41)。大学卒業後、一般企業に就職したり、起業したりしたが長続きしなかった。「話し下手だから」と自己分析し、〇五年に講談師の神田すみれさん(67)に入門した。

 古典の稽古に明け暮れていたとき、パナソニック創業者の松下幸之助氏ら名だたる経営者が、豊臣秀吉らを題材にした講談を経営のヒントにしたと知った。トヨタ「プリウス」や大塚製薬「オロナイン」などヒット商品の誕生秘話を講談に仕立て、企業研修などで披露したところ好評だった。

 企業に足を運ぶうち、営業トークに悩む社員の声を聞き「講談の読み口や発声が役に立つ」と講談教室を思い立った。現在七カ所の教室に生徒は約二百人。山緑さんは「どんな話も講談になるし、読み方の発声ができればコミュニケーションもうまくいく。宝の山です」と話す。

◆創作どんどん

 二つ目宝井琴柑(たからいきんかん)さん(36)が都内で教える「修羅場塾」には、歴史好きの女性(歴女)の姿が目立つ。一六年から茨城県つくば市の「つくば観光大使」を務めるフリーアナウンサー小村(こむら)悦子さん(37)もその一人。地域史にちなんだ「筑波山 出世のがまの油売り」などを創作し、動画投稿サイトで発信するなど、仕事に結びついている。「地域に埋もれがちな人物伝などを講談にすれば、情景が浮かび興味を持ってもらえる」と手応えを語る。

 琴柑さんは「塾生は身近な地域史などを講談にして、人に聞いてもらって張り合いを感じているようです」と実感を語る。

 毎日放送(大阪)の元ラジオ報道部長で、企業コンサルタントとして活動する大谷邦郎(くにお)さん(56)はこれまで、地域おこしや地元企業家の一代記など数十本の講談を創作してきた。それを知り合いの旭堂小南陵(きょくどうこなんりょう)さんが高座にかける。大谷さんは「報道の現場にいたので取材はお手のもの。報道と異なり虚構も盛り込めて楽しい」と笑う。

 一方で、若者世代への普及を課題に上げる。「おなじみの『水戸黄門』も若い世代にはピンと来なくなっている。若い世代を呼び込まないと講談は滅びる。伝統の読み口の技法などは守りつつ、聴いたことのない人にも親しんでもらえるよう作っていきたい」

マサオ君(左)としんべヱのぬいぐるみと

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◆声優+講談師の二刀流 一龍斎貞友さんに聞く

 「読解力を養い、人物描写に役立つ」と話す一龍斎貞友さんは声優として活躍していた一九九二年、一龍斎貞水さん(78)=二〇〇二年人間国宝=に弟子入りし、講談界入りした。アニメ「クレヨンしんちゃん」のマサオ君、「忍たま乱太郎」のしんベヱなど、当たり役を持つ声のプロは講談から何を得たのか。

−人気声優がなぜ講談を?

 あの頃、女性の声優は芸のキャリアアップが難しく、将来のことを考えて伝統芸の分野で何か積み重ねたいと考えた。その時、たまたま聴いた貞水師匠の芸が心の琴線に触れ、門をたたきました。

−修業生活は?

 師匠は「声優もおやんなさい」と言ってくれたが、とにかく厳しく約二十年は大変だった。「講談をやめるな。時間はかかるがうまくなる」と言われ続けた。

−声優の仕事にどう生かされた?

 物語を深く読み込み、キャラクターをどれだけ掘り下げられるか意識するようになった。アニメであっても本当の人間が話しているように聞こえると視聴者や声優仲間からほめてもらえる。

−声優の仕事に講談は役立つのか?

 講談は説明を省いても、聴く側が人物の心の動きをイメージできるよう表現することが大切。行間を読み、何を感じとるかの勉強は有効だと思う。

−これからも二刀流で。

 勉強し続ければ力が付いて、表現者として厚みが出る。声優仲間も聴きに来てくれる。二刀流を認めてくれるようになったのかな。

 ▽1981年に声優デビュー。92年に入門し、講談師として「貞友」を名乗る。96年に二つ目。99年、声優としても芸名を「鈴木みえ」から貞友に改める。2004年、真打ち昇進。

 

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