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【放送芸能】

アンパンマン だ〜いしゅき 映画「かがやけ!クルンといのちの星」

 劇場版アンパンマン第三十作となる「それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星」が三十日、公開された。第一作の公開は一九八九年三月。毎年春から夏にかけて新作が公開され、昨年は累計の観客が九百万人を突破した。小さい子どもたちに大人気のアンパンマン。生まれて初めての映画がアンパンマンという人も多いのでは? (猪飼なつみ)

 新作で「クルン」の声を担当した女優杏(あん)さん(32)は六月上旬、二歳の双子の娘と一緒に東京都調布市の試写室で、完成したばかりの作品を観賞した。

 「まだストーリーをそこまで追えているわけではないと思うけど、真剣に見て楽しんでいた。子どもたちは一事が万事アンパンマンという感じで、絵本もぬいぐるみも持っています」。子どもの話に、思わず杏さんの表情も緩む。

 バンダイ(台東区)が〇〜十二歳の子どもを持つ親八百人を対象に毎年行っている子どもが好きなキャラクター調査で、アンパンマンは二年連続で総合一位を獲得。二〇一四年までも十三年連続で一位となっており、人気の根強さを裏付ける。特に〇〜二歳児では男女とも二位に大差をつける圧倒的な人気で、乳幼児がアンパンマン人気を支える形となっている。

 なぜ乳幼児に人気なのか。慶応大で「赤ちゃんラボ」を主宰する皆川泰代教授(発達認知神経科学)は「まだ目がはっきり見えないゼロ歳児にとって、丸い顔で目と口がはっきりしていて、色のコントラストが強いアンパンマンは注意が向きやすい」と説明する。

 皆川教授らの研究で、生後五〜六カ月の赤ちゃんにアンパンマンと人間の女性がそれぞれ「いないいないばあ」をする動画を見せて比較すると、アンパンマンの方が注視時間が長く、脳活動が活発だったという。

 さらに「『パ』や『マ』は赤ちゃんでも言いやすい音で名前を呼びやすい。顔の特徴と合わせて、ストーリーを理解する前から親しめる」と皆川教授は指摘。「二歳児以上には、身の回りの食べ物などがキャラクターになっているのも魅力では」と話す。

◆アンパンマンの声30年 戸田恵子さん

 ♪なんのために生まれて なにをして生きるのか−。記念の第30作は、やなせさん作詞のテーマ曲「アンパンマンのマーチ」の意味をひもとく物語となっている。1988年10月のテレビ放送開始からアンパンマンの声を務める戸田恵子さん(60)は「アンパンマンと出会って、私は皆さんに元気になってもらうために芸能の仕事をしていると思うようになった」と語る。

−30作目について。

 (やなせ)先生が歌詞に書いたことを(劇中で)問われたアンパンマンがきちんと答えられる場面が格好いいなと思いました。大人も含めてなかなか答えられないことなので。それから、ばいきんまんとの関係にもびっくりする場面があると思いますよ。

−物語から感じることは?

 食品や菌が仲良く共存している世界で、物語にはお金の話がなくて損得がない。ジャムおじさんは誰かの笑顔のためにパンを作るし、アンパンマンは自分が弱くなるのを分かっていて顔を食べさせる。現実ではなかなか難しいことですよね。でも、先生は私にも「人が喜ぶことをしなさい。人生は喜ばせごっこ。みんなが誰かのために何かしていたら間違いがない」とおっしゃっていました。それに尽きると思います。

−戸田さんにとってアンパンマンとは?

 人生の半分、関わってきたので私の半分はアンパンマン。宝物をいただいたと思う。それから毎週(声優の)みんなに会って何でも分かち合ってきたから親友よりも大きな存在。もう一つの家族という感じなんです。このメンバーでやらせてもらえることも奇跡だし、先生と出会えたことも。これからも大切にしようという気持ちは強くなっています。

◆故やなせさん 制作秘話

 原作者やなせたかしさん(一九一九〜二〇一三年)が最初にアンパンマン(当時は「あんぱんまん」)を月刊絵本で世に出したのは一九七三年。出版元フレーベル館の「アンパンマン室」天野誠室長(65)は「当初はアンパンマンが自分の顔を食べさせることに大人は批判的だったけれど、子どもたちに絵本は引っ張りだこだった。最初に評価してくれたのは子どもたち。先入観なく読んでくれた」と振り返る。

 当時の常識はヒーローが悪者と戦って最後に勝つ勧善懲悪。ところが、アンパンマンは困っている人を助け、おなかを空(す)かせていれば、あんパンでできた顔の一部を食べさせる。やなせさんは生前、自らの従軍経験を踏まえ「悪を倒せば正義の味方なのか? なぜ相手を木っ端みじんにすることが正義なんだ。そんな正義は間違い。(中略)アンパンマンは目の前のおなかが空いている人を助ける。それなら、どんな世界に行っても正義なんです」と、異色ヒーローの誕生秘話を明かしていた。

 小さな愛読者に日々向き合う天野さんは人気の秘密をこう語る。「顔を食べさせても必ず復活する安心感があり、敵をやっつけて終わりではなく、困った人を助ける物語だということを分かってくれている」

 

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