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【放送芸能】

ジブリのDNA継ぎ その先へ スタジオポノック

◆新しい表現求め「短編劇場」24日公開

 スタジオジブリから独立し、昨年アニメーション映画「メアリと魔女の花」を大ヒットさせたスタジオポノックが新たなプロジェクトに挑む。「ポノック短編劇場」と銘打ち、第一弾として三本の短編で構成する「ちいさな英雄−カニとタマゴと透明人間−」が二十四日、公開を迎える。ジブリが誇る巨匠、宮崎駿さん(77)、故高畑勲さんと共に仕事をしてきた監督、ポノックの創設者がアニメの未来を見据えた挑戦を語った。 (猪飼なつみ)

 スタジオポノックは、スタジオジブリを退社したプロデューサー西村義明さん(41)が二〇一五年四月に設立。一四年末にジブリの制作部門の解散を受け、「宮崎さん、高畑さんが作ったような映画をこれから子どもたちが受け取ることができなくなるのかと焦燥感があった」と経緯を振り返る。「ポノック」はクロアチア語で「深夜零時」を意味し、「新たな一日の始まり」の思いを込めた。

 初長編作品として「借りぐらしのアリエッティ」や「思い出のマーニー」の米林宏昌監督(45)が「メアリ−」を製作。国内で二百六十六万人を動員し、鮮烈デビューを飾った。

 しかし、西村さんは「宮崎さんと高畑さんのおかげでジブリの様式は日本や世界で追従されるようになったけれど、あぐらをかいていいのか」と危機感も募らせた。巨匠たちがアニメの新しい表現を模索してきた。では、自分たちはどうすればいいのか。思いついたのが「短編」。約十五分の作品だからこその題材を取り上げ、新しい表現を生み出すことにした。

 第一弾は「ちいさな英雄」をテーマに、米林監督の「カニーニとカニーノ」、百瀬義行監督(64)の「サムライエッグ」、山下明彦監督(52)の「透明人間」の三つの物語をそろえた。西村さんは「三人とも予想以上にこだわり、作っている最中も試行錯誤してどんどん変化した」。今回はジブリと縁の深い三人が監督を務めたが、今後は新たな才能も見つけていく。

 エンドロールには「感謝 高畑勲」と流れる。四月に死去した高畑監督の短編も、四本目として入る計画があった。「短編劇場の話をしたら、すごく興奮してうれしそうだった。企画も具体的に進めていたけれど…」と西村さんは悔やむ。「『感謝』と書くと、終わってしまったようで入れるか悩んだ。でも高畑監督たちの背中を追って僕らの今があるから感謝しかない」

 アニメの可能性を模索するためにも「次に進んでいかなければ。宮崎さん、高畑さんのように僕らも立ち止まってはいけない」と未来を見据える。

●カニーニとカニーノ

 サワガニの父トトと兄カニーニ、甘えん坊の弟カニーノは、巨大な魚たちから隠れて川底でひっそりと暮らしていた。ある日、大嵐に襲われ、カニーノを助けたトトが巨大な泡の塊に連れ去られてしまう。カニの兄弟は、父を捜して初めての大冒険に出る。

◆未来見据え「立ち止まらない」 底力と可能性を感じる

<ジブリ作品に詳しい映像研究家の叶精二さんの話> 3作品それぞれの監督がオリジナルシナリオも書き、スタジオポノックはいろいろな絵柄の作品を製作できるということを示した。短編ながら深さも広さもあり、底力と可能性を感じた。

 米林監督はこれまでの手描きのキャラクターと、3DCGIをどう馴染(なじ)ませるかに挑戦した。百瀬監督は、柔らかい色調と線描の様式で、取り上げられることのなかったアレルギー問題を扱い、テーマ選択の裾野を広げた。山下監督は、質量のない透明人間という独創的アイデアをダイナミックなカメラワークで存分に見せた。

 今後もフレキシブルなアイデアで製作されることを大いに期待したい。

◆百瀬義行監督 見た人励ます作品に

 「火垂(ほた)るの墓」から「かぐや姫の物語」まで、高畑作品で中核を担ってきた百瀬義行監督は「サムライエッグ」で極度の卵アレルギーの少年を描いた。「生きようとするのは人間の本能なのだと再確認できる作品であれば」と言う。

 百瀬監督は、知人を通じて卵アレルギーの少年の母親から少年の生活などを聞き、医療現場も取材した。初めてその実態を知り、誤食に常に気を使う少年シュンの生活を絵本タッチでリアルに表現した。

 「長編では少年が何か成し遂げようとするとか、別のストーリーを入れなければならないかもしれないけれど、短編だからストレートに描けると思った」と振り返る。「作品を通してその子を励ましたいし、アレルギーでなくても誰でもいろいろな問題を抱えている。(見た人みんなを)励ますような作品にしたい」

 シュンは卵入りの食品に常に気を配る一方、学校のスポーツテストでシャトルラン(往復持久走)をしたり、活発に野球をしたりする場面もある。「アレルギーがあるからといって、弱い子ではないし、特別な子ではないと分かってもらえるのでは。同情してほしいという物語ではない」

 作品の視野を広げ、それがかえって本筋を際立たせるような手法は高畑さんの影響という。高畑監督からは「片腕から抜け出して(自分の)両腕」と全幅の信頼を寄せられた。今作で製作に行き詰まった時「(世話になった)高畑さんとアニメーターの二人が近くに現れた気がした」と照れたような笑みを見せた。そんな「見えない力」にも導かれ完成させた。

 「高畑さんは手取り足取り教えてくれる人ではなく、一緒に考えながらやってきた。だから仕事が面白かった。高畑さんを超えようなんて思っていない。みんな向かっている方向が少しずつ違うから」

●サムライエッグ

 東京・府中に暮らす少年シュンは、野球好きで元気な小学生。しかし、一つだけ友達と異なるのは、極度の卵アレルギーに悩まされていること。ある日、母の留守中に誤って卵入りのアイスクリームを口にしてしまい、体に異変が起きる。そのときシュンの行動は…。

◆山下明彦監督 妥協なし 出し切った

 孤独な男の闘いを描いた「透明人間」の山下明彦監督は、「ハウルの動く城」「崖の上のポニョ」など、宮崎駿作品で手腕を発揮してきた。アニメは絵を動かしてキャラクターに命を宿すが、もし表情も描けない透明人間だとしたら…。約二年前からこの企画に挑戦してきた山下監督は「これほど妥協せずに作ることができたのは初めて。出し切って、もう空っぽなんです」と清々(すがすが)しく笑う。

 透明人間の案は、西村プロデューサーから持ち出され、山下監督はためらったという。「実写ならいいけれど、アニメーションでやる意味があるのかと思って代替案を出していたんです。でもどの案も西村君に無視された」。しかし、「透明人間はSF」という思い込みをなくすと、さまざまなことを思い付き、次第に形になっていった。

 本作の透明人間は実態はあるのに、周囲がその人に無関心であれば見えないも同然という設定。「職場や学校で、相手にされていない、存在価値を認めてもらえない人は少なくない。そんな主人公を応援したくなるような作品にしたい」と思うようになった。

 「僕も今は仕事ができていても、次でだめになるかもしれない。その怖さは常にある」。スタジオジブリ制作部が解散してから制作会社を転々としてきた。「テレビのアニメシリーズを作っていたけれど、思うようにいかなくて」。そんな時、西村さんから短編製作を持ち掛けられた。

 アニメの世界を目指すきっかけにもなった宮崎監督の影響は、透明人間の「ここにいる」という確信のなさや不安定な内面を立ち姿などで表現する手法に表れている。「写実的に描くよりも、人の記憶に触れるように描いた方がリアリティーがあるという宮崎さんの考えが反映されている」

 人や世の中に対する宮崎監督の視野の広さ、流行には見向きもせずに自ら流行を作る力などに「器の大きさが違いすぎる。でもせっかくそばにいるから、少しでも技を盗んで近づきたい」と貪欲さも見せる。

 「もう空っぽだから次回作は考えられない」と言いつつも、「今回はシリアスだったから、次はコメディーをやりたいかな。笑わせて笑わせて、最後に泣かせるような」と話した。

●透明人間

 都会の片隅に一人の青年が暮らしていた。ワイシャツを着て、歯をみがき、いつも通りに家を出る。しかし、彼は透明人間。誰も彼のことが見えず、コンビニの自動ドアも、ATMも彼を認識しない。ついに重力からも見放され、空高く舞い上がる。このまま消えてしまうのか。

 

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