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【放送芸能】

家族の絆描くオリジナル脚本 野尻克己監督「鈴木家の嘘」

鈴木家の4人。(左から)岸部一徳、木竜麻生、加瀬亮、原日出子

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 引きこもりだった息子の自死に揺れた家族の再生を描いた映画「鈴木家の嘘(うそ)」が16日、公開される。監督デビューとなった野尻克己(43)が、自身の経験を基にオリジナルの脚本に託した。内面に抱え込みがちな重い体験を観客に伝えるため、野尻監督は「喜劇に変換する」手法をとった。ユーモアを交えながら、人間の持つ愚直な愛情や思いやり、家族の絆を表現している。 (酒井健)

 閑静な住宅街に暮らす鈴木家は、夫婦と二人兄妹(きょうだい)の四人家族。自室に引きこもっていた長男・浩一(加瀬亮)の自殺から物語が始まる。父の幸男(岸部一徳)、母の悠子(原日出子)、妹富美(木竜麻生(まい))は悲しみにくれ、ショックで記憶を失った悠子のため、鈴木家は「浩一は、アルゼンチンで働き始めた」と家族ぐるみのうそをつく…。

 野尻監督は兄が自死した体験とその後の取材から「引きこもりの家族や、自殺者の遺族は『海外や地方で働いている』などと(他人に)答えることが多い」と話す。「なぜ(自殺したか)と聞かれても、家族にも分からない。自分でも答えが出せないから、話を終わらせたくなるんだと思う」と説明する。

 鈴木家のうそは、大掛かりだ。叔父が事業を営んでいるという浩一の“滞在先”からは次々に便りが届き、母は次第に笑顔と健康を取り戻す。一方で、父と妹は、それぞれ心の行き場を探して街をさまよい歩く。「表面的な笑いではなく、親の愛情や、思いが伝わる笑い。悲しませたくないという人間の思いが愚直になるほど、笑えるのだと僕は思う」と野尻監督。

「鈴木家の嘘」の一場面。(左から)原日出子、木竜麻生、岸部一徳

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 監督が出演依頼した岸部を「おかしみがあるけど、背中はさみしい」、原を「母としての動物的な本能をむき出しにしてくれた」と演技を評した。二十四歳の新進女優の木竜については「純朴だけど、心の鋭さを感じる。昔の薬師丸ひろ子さんのよう」と、オーディションで目に留まった。

 しかし「兄への『愛憎』を表現するのは、難しかった」という。死別の悲しみを癒やす会合(グリーフケア)で、富美が兄への思いをつづった手紙を読み上げるシーン。「憎しみだけが現れたり、愛情だけになったり。十三回、撮り直した」。役の重さに木竜の目は涙で赤く腫れていたという。

 野尻監督は「祖父母など家族を亡くした体験は、多くの人にある。僕自身だけの話にはしたくなかった。見てくれた人が、もう一度、家族について考えてくれる機会になれば」と初監督作品を振り返った。

「表面的でなく、人の思いが伝わる喜劇にしたかった」と話す野尻克己監督=東京都中央区で

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◆監督の作家性に注目 「プロジェクト」が発掘

 「鈴木家の嘘」は、衛星放送の松竹ブロードキャスティングが製作する「オリジナル映画プロジェクト」の第6弾。脚本を執筆するなど「作家性」のある監督を育て、「新人俳優の発掘」も目標に、オリジナル作品を2014年から世に送り続けている。

 野尻監督は、プロジェクトのヒット作「恋人たち」(15年公開)に助監督として参加。その際、橋口亮輔監督から「体験を書いても、そのままでは(観客に)伝わらない」とアドバイスを受けたという。より多くの人に伝わるようにと考えて書き上げた脚本が「鈴木家−」だった。

 「(描かれている)家族の姿は、どこの家族の話でもあると思った」と、映画化を決めた小野仁史プロデューサー。「体験から出てくる言葉は強い。監督がオリジナル脚本で書くならば、その強さは何ものにも負けない」と評価した。

 プロジェクトは来年、「カメラを止めるな!」のヒットで名をはせた上田慎一郎監督のオリジナル作品の製作、公開を予定している。

<のじり・かつみ> 1974年生まれ、埼玉県出身。東京工芸大映像学科を卒業後、映画業界入り。熊切和嘉、豊田利晃、大森立嗣監督らに師事。武内英樹監督「テルマエ・ロマエ」(2012)、橋口亮輔監督「恋人たち」(15)など多数の作品にチーフ助監督として携わった。

 

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