東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【放送芸能】

一心不乱 「鼓童」佐渡合宿 体験入門記

1日目午後2時半 「打ちっ放し」の稽古の迫力に圧倒された=いずれも新潟県佐渡市で

写真

 今や、和太鼓は日本が誇る音楽として定着した。中でも新潟・佐渡島を拠点に活動する老舗「鼓童(こどう)」の勇壮で華麗なステージは世界の人々を夢中にさせる。あの演奏はどこから生まれるのかと思いをはせていたら、「合宿体験しませんか」と“天の声”が。十月下旬、記者(32)は迷うことなく新潟港からジェット船に乗り、風光明媚(めいび)な島に降り立った。一泊二日の滞在で体験したものは…。いやぁ厳しかった…。 (原田晋也)

廃校を利用した鼓童の研修所。左が稽古場、右が宿舎

写真

 佐渡島の玄関口、両津港から車で一時間。柿野浦という小さな集落の坂道を上ったところに、鼓童の研修所がある。二十数年前に廃校になった中学校の木造校舎だ。教室を寝起きする部屋にし、体育館がそのまま稽古場になっている。現在は研修一年生が八人、二年生九人が生活している。感性や身体機能を磨くため手作業で米や野菜を育てている。正午前に到着すると、研修生たちは人力で稲穂からもみを外し、より分ける作業を黙々としていた。

 鼓童のメンバーになるには、ここで共同生活を送って心身を鍛え、さまざまな伝統芸能を学ぶ二年間の研修が必要だ。現メンバーも「戻りたくはない」と口をそろえていたが、修業は半端ではなさそうだ。

 午後零時半、昼食。自分たちで用意する。食事の際は正座で、箸は利き手と逆の手で持つ。太鼓を打つ左右の手の感覚をそろえるためという。早々に諦めた記者を尻目に、研修生たちは平然と箸を操っていた。

1日目正午すぎ 見留さん(左)から太鼓の指導を受ける記者

写真

 研修生は十八〜二十五歳。埼玉県出身の春日井啓太さん(19)は家族全員が鼓童のファンといい、喜んで送り出してもらったという。「ツアーの演出とかにも関わり、日本の伝統芸能って言ったら鼓童でしょ、って言われるくらいにしたい」と夢を語る。スイス出身のバジゲル・アニーナ・チッラさん(25)は、鼓童のスイスツアーに魅了されやって来た。「将来はスイスで和太鼓を広めたい」

 午後二時、「行くぞっ!」の掛け声で空気が一変した。代表曲の一つ「屋台囃子(やたいばやし)」の稽古が始まった。「打ちっ放し」と呼ぶ稽古で、大小の太鼓、鉦(かね)、笛をひたすら演奏し続ける。

 大きな太鼓は特に激しい。斜めに固定した太鼓の前に座り、上半身を後ろへ傾けた体勢で連打する。研修生たちは歯を食いしばり、苦しそうな表情だがそれでも打つ。結局三十五分ぶっ続けだった。二時間続けたこともあったという。

 講師は前代表の見留(みとめ)知弘さん(48)。「お客さんの心を動かすのは、結局は生きざま。どれだけ本気でやっているか」と語る。時には厳しさに涙を流す研修生もいる。「一回の舞台にかける意気込みをすぐ出せるようにならなければ、メンバーになっても埋もれてしまう。いかに本気を出させるかの真剣勝負です」

 夕食は午後七時。その後、自主稽古に励む。太鼓は午後九時十五分まで、歌や笛は同九時半までと、規則で決められた時間ぎりぎりまで続いた。就寝は午後十時。その十分前には部屋にいる決まりで、入浴は五分ほどで慌ただしく済ませることもざらだという。寝室は全て相部屋だ。携帯電話は禁止で、放送が映るテレビは一台もない。「一人になれるのは目をつぶった時とトイレだけ」という環境だ。しかも、二年間を乗り切ってもメンバーに選ばれるとは限らない。仲間でもありライバルでもある。

2日目朝6時すぎ 雨に濡れながら海沿いを走る記者(左)

写真

 午前五時。起床時間を知らせる拍子木の音が響く。外はまだ真っ暗だが、ラジオ体操と朝の掃除を済ませ、日課のランニングだ。海沿いの道路を往復して三十分間走り続ける。水平線の先にはうっすらと本州の山が見える。毎朝眺めては「帰りたい」と思うのだという。しかし、この日は冷たい雨。その山も次第に見えなくなった。

 記者も走った。汗と雨で体が重くなっていく。何とか三十分走ったが、研修所までの一キロほどの上りの坂道が難関で、足が止まった。並走してくれた山口諒(りょう)さん(18)に励まされ、研修所に戻ることができた。

 山口さんは「こうして肺活量も鍛えるんです」と、重いものを動かす時に歌う木遣(きや)り唄を歌ってくれた。息も切れ切れの記者とは対照的で、力強く堂々とした、遠くまで響く太い声だった。「ランニングも起きるという動作の一つみたいな感じです」と平然と語る研修生もいた。まさに彼らにとっては“朝飯前”だ。

 午後一時。午前の稽古も見学し、いよいよ帰る時間になった。鼓童がコンサートなどで人を送り出す時に演奏する「送り太鼓」を研修生たちが演奏してくれた。車が走りだしても、演奏しながら追い掛けてきた。二十五時間ほどの体験だったが、研修生たちと仲間になれたような気持ちがした。そして、鼓童の音の力強さの源泉を見た気がした。

写真

<鼓童> 「鬼太鼓(おんでこ)」など豊かな郷土芸能が残る新潟県佐渡島を拠点に、国内外で活動する太鼓芸能集団。「佐渡の國(くに)鬼太鼓座」が前身で、1981年に結成。これまでに50の国と地域で6000回以上公演している。船橋裕一郎代表。現在、奏者は約35人在籍。

 既に始まっている新作ツアー「巡(めぐる)」は、12月7日千葉・船橋、8日神奈川・茅ケ崎、9日埼玉・熊谷、11日横浜、13日埼玉・富士見、15日東京・調布、16日東京・福生、19〜23日東京・文京シビックホールなどで公演を開く。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報