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【放送芸能】

注目!!赤穂女子でござる 伝統芸能の世界で受け継ぐ「忠臣蔵」

女流義太夫演奏会で「仮名手本忠臣蔵」を披露する鶴沢津賀寿さん(右)ら。15日午後1時半から東京・紀尾井小ホールでも開催される

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 「おのおの方、討ち入りでござる」。一九六四年のNHK大河ドラマ「赤穂浪士」で、大石内蔵助を演じた長谷川一夫さんのせりふが流行してから半世紀以上。最近、テレビや映画で「忠臣蔵」をあまり見かけなくなったが、伝統芸能の世界ではやはり、師走=忠臣蔵。今や義太夫、講談、浪曲などは女性陣が作品の根底となる忠誠心や武士道の誇りを語り継ぐ。十四日は討ち入りの日、今年は“赤穂女子”に注目でござるよ。 (神野栄子、藤浪繁雄)

◆女義

 十一月二十日、東京・お江戸日本橋亭。力強い太棹(ふとざお)三味線の音に乗せ、女性たちの浄瑠璃が深くしみ入る。「女流義太夫(女義)」の会で、若手の女性太夫(語り)たちが名作「仮名手本忠臣蔵」の序盤「松の廊下」の刃傷事件などを披露した。満員の客席からは「待ってました」「たっぷり!」と声が掛かった。

 義太夫節は、太夫が人物の心情や情景を節に乗せて語り分ける。女義は浄瑠璃方の竹本駒之助さんと三味線方の鶴沢津賀寿(つるざわつがじゅ)さんの黄金コンビが人気で、近年は若手も続々登場している。

 この日、最後に出演した津賀寿さんは緩急を絶妙に弾き分け、優しい音色で包み込んだ。「(四十七士ら)登場人物たちの変遷を音色で弾き分けることを意識している」と話す。入門から十三年の太夫、竹本京之助さんは駒之助さんから敵役の吉良上野介に当たる「高師直(こうのもろのお)」を演じる時の心構えとして「品格が大事。下品にならないように」と指導され気合が入った。

◆講談

 「冬は義士夏はお化けで飯を食い」と言われる講談の世界は、忠臣蔵にまつわる演目が多い。特に「赤穂義士伝」がよく知られる。名人だった二代目神田山陽さん(一九〇九〜二〇〇〇年)が東京・池袋演芸場の十二月中席(十一〜二十日)で長年、義士伝でトリをつとめた。今年は弟子の神田紅さん、神田陽子さん、神田紫さんの三人が大役を受け継ぐ。

 紅さんは「義理人情や潔さが失われている昨今、四十七士から男の生き方を伝えていきたい」と言い、三十六歳の弟子神田真紅(しんく)さんが二つ目に昇進する時、義士伝の一話を伝授した。真紅さんは「義士たちの(討ち入り参加の)決断と(家族や愛する人との)別れのドラマに魅力を感じる」と熱い。最近は「刃傷松の廊下」を吉良、大石内蔵助、浅野内匠頭と役割を分け、小学生に教えている。「義士ゆかりの場所を散歩して情感を膨らませている」と勉強も欠かさない。

◆浪曲

 浪曲も負けていない。十一月下旬、日本浪曲協会の東家三楽会長が門下の女性三人と東京・浅草木馬亭で「大忠臣蔵」と銘打った会を開催、若い客でにぎわった。

 三十歳の富士綾那さんは「義士伝」から「矢頭右衛門七(やとうえもしち)しぐれ」という悲劇の一席を初めて披露。澄みきった啖呵(たんか)が客の心をつかみ、大きな拍手が起きた。「忠義のために死ぬなんて今の日本人には理解できないかもしれないが、人間愛の描き方をもっと勉強して若い人に伝えていきたい」。三楽さんは「若い演者だからこそ語れる『忠臣蔵』があると感じた。東家の十八番『義士伝』を魂を揺さぶるような啖呵で語り継いでいきたい」と意気込む。

◆家族にもスポット

 伝統芸能の各分野で活躍する女性たちが忠臣蔵の継承に取り組んでいることについて、演芸と義太夫に詳しい文筆家の矢内裕子さんは「女性の目線で演じることで、あまり描かれなかった妻や家族の悲しみや苦しみ、情愛にスポットが当たり、その結果、四十七士らの物語も引き立つようになったと思う」と語る。

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◆「七段目」格別な思い 江戸落語真打ち 柳亭こみち

 落語では「芝居噺(ばなし)」というジャンルがあり、歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」の名場面を登場人物がまねする演目もある。その中でも「七段目」に格別な思いを持っているという、江戸落語の真打ち柳亭こみちさんに話を聞いた。

 −「七段目」は若だんなと丁稚(でっち)定吉の芝居マニア二人の掛け合いが楽しい。

 寄席で師匠方の高座に触れてはいたが、自分で「やりたい」と思う時が来るとは考えもしなかった。大ネタだから。でも二〇一三年の暮れ、(上方の)桂吉坊師匠の上方の「型」を初めて見て感動した。師匠が出演する会を情報誌で調べ、「稽古をお願いします」と懐に飛び込んだ。

 −上方の型とは。

 (哀愁などを表現するクライマックスと対照的に軽やかでリズミカルな)「踊り地」が入っていること。吉坊師匠の高座に「この若だんなや定吉の気持ち、私の中に必ずある」と魅了され、やってみたくなった。

 −どんな稽古を。

 噺を十ぐらいに分けて、Aを三回、次はABを三回、ABCを三回…と口伝(くでん)で稽古する方法で、吉坊師匠が東京に来られるたびに間断なく付けてくださった。稽古のために(歌舞伎のセリフなど)芝居と踊りをプロに見ていただいた。

 −すごい熱意です。「七段目」はよく披露しますか?

 お囃子(はやし)さんがいて、ツケ(板に木を打ち付ける効果音)と太鼓が入るところでないとできないので限られる。踊り地のこともあらかじめ映像を用意して覚えてもらう必要がある。あまりにも特別なので、ここぞという時にしかできない。

 −忠臣蔵を知らない人も増えている。「七段目」などの上演も難しいのでは。

 江戸から抜け出てきたような、うちの師匠(柳亭燕路(えんじ)さん)の高座をたくさん見てきた。私たちは芝居(歌舞伎)をもっと見て勉強し、江戸の薫りを感じていくことが大切。忠臣蔵を知らなくてもそんな薫りを感じてもらい、楽しめるように演じていきます。

◆CS、今年も名作特集

 テレビドラマや映画では、松の廊下の刃傷事件から討ち入りまでを描く“王道”の「忠臣蔵」は減っている。減少傾向について、CS放送「時代劇専門チャンネル」を持つ日本映画放送の広報担当者は「時代劇からスポンサー離れが進み、大勢のスターをそろえる必要がある討ち入りの場面などは多額の費用がかかり、制作しにくくなった」と説明する。

 一九九〇年ごろからトレンディードラマが人気となり、お茶の間に家族が集まって楽しむホームドラマや時代劇にスポンサーがつかなくなってきたという。九八年に開設された時代劇専門チャンネルは、地上波で少なくなった時代劇を熱望する中高年世代らに支持されている。

 同チャンネルでは毎年十二月、忠臣蔵特集を組み、過去の名作を放送。今年は十五日午後四時から、名優の片岡千恵蔵さんや市川右太衛門さんが出演した映画「忠臣蔵 櫻花の巻・菊花の巻」(五九年)、同七時半からは高倉健さん主演の映画「忠臣蔵 四十七人の刺客」(九四年)を放送。ほかに過去の長編ドラマも放送する。

 「忠臣蔵には日本人が好きな自己犠牲、勧善懲悪、滅びゆく者の美が凝縮されている。不条理やしがらみもあり、経済ドラマなどとも通じる。決して古くなく今の人たちにも十分通用する」と広報担当者。

CD「話芸と歌で聴かせる『忠臣蔵』 義太夫」のジャケットは兵庫・赤穂市立歴史博物館所蔵の浮世絵を使用

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◆貴重音源のCD好評

 忠臣蔵をじっくり楽しみにくくなった時代だが、今夏に出たCD「話芸と歌で聴かせる『忠臣蔵』」が好評だ。全五タイトルで、発売元のキングレコードが所蔵する義太夫、浪曲、講談、歌謡曲や民謡の貴重な音源をよみがえらせた。同社の大槻淳さんは「昔、エンタメの世界では『困った時は忠臣蔵』と言われていたが、手軽に鑑賞できない時代になった。CDは名人芸で忠臣蔵を味わいたいという人に好まれている」と話す。

 

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