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【伝統芸能】

<演芸>指笛で「ホーホケキョ」 江戸家120年 春告げる至芸

 新春の寄席に酉(とり)年を祝うかのように、ウグイスのさわやかな鳴き声が響く。声の主は動物声帯模写の二代目江戸家小猫(39)。指を曲げて奏でる鳴き声は「江戸家」が親子四代、百二十年にわたって受け継いできた。秘伝の芸は数あれど「ウグイスは特別」と言う。昨年死去した父の四代目猫八さんから「何があってもウグイスだけは鳴けるように」と言いつけられた小猫。父との約束を胸に、今日もどこかでウグイスが鳴く。 (神野栄子)

 「ピィ〜ピィピィー」。小猫が右手の小指をカタカナの「コ」の字に曲げて、その隙間を笛のようにして音を出す。東京都内の公園で「指笛」を鳴らすと木々にいた野鳥がざわめきだした。「縄張りを荒らされたと察知したのでしょう」と笑う。小指をかみながら吹くので指にマメができる。これを祖父の三代目猫八さん(一九二一〜二〇〇一年)が「ウグイスマメ」と言っていた記憶がある。「父と歯並びも手の形も違うのに、同じところにマメができる」。これも江戸家の証しだ。

 指笛は曽祖父の初代猫八(一八六八〜一九三二年)が編み出し、血縁のない二代目をはさみ、祖父の三代目、父の四代目と継承された。ウグイスのほか、秋に鳴く虫、カエルが江戸家百二十年の「お家芸」という。

 その至芸はだれも教えてくれない。見よう見まねで覚えるしかない。しかし、幼いころ父と入浴中、なかなか音の鳴らない小猫の小指を父が自分の口に運んで吹いてみせたことがあった。「高くてかわいいウグイスの声でした」。自分の指で音が出た感動に加えて、父がかんだ感触は宝物だ。

 同じ頃、父はこんなことも言っていた。「もし、おまえが違う世界で生きていくならそれは止めない。どんな仕事をしてもいいが、ウグイスだけは鳴けるようにしなさい」。小猫は「江戸家が脈々とつながっている証しを大切にしていると感じた」と語る。

 高校時代、声帯模写にひかれながらも、人前でしゃべることが苦手だった。「自分はお堅い人間。祖父や父のようにはできないのでは」と悩んだ。卒業目前でネフローゼという腎臓病を患い、十二年も闘病生活を余儀なくされた。

 回復するにつれ、徐々にチャレンジしていった。二〇〇九年、四代目猫八を襲名した父の自主興行の際、二人で舞台に立って吹っ切れた。「お客さまから『面白い』と言われ、この世界で生きるブレない軸ができた」と自信と手応えをつかんだ。

 祖父は話芸に重きを置いて大いに笑わせ、父は鳥の芸を究めた。自分は「哺乳類の声に軸足を置き、動物園に通って徹底的に研究している」日々だ。晩年の父とアフリカに行ったことがある。これも「ヌーの鳴き声を確認したかったから」という。各地の動物園の飼育係と交流し、そこで覚えたフクロテナガザル、シロテテナガザルの鳴き声は得意芸となった。

 話芸に力を入れた祖父と違い「高座では動物の声帯模写以外はやらない」と決めている。自身で編み出した鳴きまねに加え、ウグイスなど江戸家の芸を大切に守り続ける。

<えどや・こねこ> 1977年5月生まれ。四代目江戸家猫八の長男。2009年、「そのうち小猫」と名乗り本格的に修業開始。11年、「二代目小猫」を襲名。東京都内の寄席などに頻繁に出演する傍ら、動物園のイベントに積極的に出演し、キリンやカバなどあまり知られていない動物の鳴き声にも挑戦している。

 今月14日午後1時半から、東京・多摩動物公園の動物ホールで開催の「どうぶつえん寄席」に出演する。

 

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