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【伝統芸能】

<和の懸け橋>外国人向け歌舞伎公演・市村萬次郎(67) 「日本文化の入り口」形に

 「歌舞伎は日本文化の入り口になる」。そんな思いを胸に、歌舞伎俳優の市村萬次郎(まんじろう)(67)は、外国人向けに国内外で公演を続けている。

 一九七〇年代、中国公演に参加した際、渡航団のまとめ役だった財界人から「外国との交流はまず文化から。経済や政治はその次だ」と文化の持つ力を諭された。舞台経験を重ねるうち「自分が日本と海外をつなぐ窓口になれるのでは」と考えるようになった。

 京劇俳優の妻潔子(きよこ)さんの後押しで、外国人向けの主宰公演を企画。九二年、東京・浅草公会堂で「外国人の為の歌舞伎教室」と題した第一回公演を開催した。まず英語と中国語で歌舞伎鑑賞のイロハを講義し、特異な霊力を持つ高僧が絶世の美女に惑わされる「鳴神(なるかみ)」を上演した。化粧の様子も舞台上で公開し、大いに好評を博した。

 九六年の香港を手始めにアジアや欧州など十数カ国・地域で公演。潔子さんが台湾の友人から「歌舞伎を見たいけど、チケット代が高い」と聞くと、多くの人が気軽に鑑賞できるよう、予算面も抑えた。役者は萬次郎ら数人に絞り、衣装や大道具、音響ら裏方も含めて十人ほどで編成。「作品も(場面を)そぎ落とし、代表的シーンを上演した」という。

 大がかりな芝居はできないが、女形の代表的な演目の「藤娘」などを萬次郎が披露したほか、外国人が興味を持つ立ち回りの技も実演。化粧や衣装、かつらの紹介もして、観客を引きつけた。

 二〇〇一年に訪ねた東欧諸国では強い熱を感じたという。特にリトアニアでは予定より公演を一回増やしたり、要望に応じて老人ホームや児童福祉施設でも上演したりした。「日本語を勉強したいと言ってくる学生もいて、うれしい限りでした」

 〇七年に東京・国立大劇場で開いた公演は四十カ国以上の駐日大使らが鑑賞。終演後のレセプションでは「こういう場だから本音で話し合えた」という声も寄せられ、歌舞伎が生の情報交換の場になり「国際交流の潤滑油」になると実感できた。

 東京五輪・パラリンピック開催が迫り、自治体も日本文化の紹介に力を入れ始め、萬次郎の取り組みにも注目。東京都港区の財団が昨秋、演技と解説の会を開いたところ、外国人だけでなく多くの日本人も詰め掛けた。今年九月の開催も決まるなど、萬次郎の志す「日本文化の入り口」が形となってきている。

 二人の息子、竹松(27)と光(23)は共にインターナショナルスクールで学び、日本の大学に進んだ。名優で人間国宝の父、十七代目市村羽左衛門(〇一年死去)も生前「通訳を介すると、すごく大変だ」と話していて、国内外の文化をバランス良く体得し表現することの難しさを痛感している。国際感覚が豊かな息子たちの力も借り、外国人のための歌舞伎をライフワークとして続けるつもりだ。 (藤浪繁雄)

<いちむら・まんじろう> 1949年、十七代目市村羽左衛門の次男に生まれる。55年、東京・歌舞伎座で五代目竹松で初舞台。72年、二代目萬次郎を襲名、名女形として知られる。歌舞伎以外でも活躍し、7月3〜25日には東京・新橋演舞場の「名作喜劇公演」の「お江戸みやげ」に出演する。

 

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