東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 伝統芸能一覧 > 記事

ここから本文

【伝統芸能】

バチカンで能「復活のキリスト」 幻の演目 54年ぶりよみがえる

 カトリックの総本山であるバチカン市国で二十三、二十四両日(現地時間)、一九五七年に能楽宝生流で初演し、六三年に一度だけ再演されたのを最後に封印された宝生流唯一のキリスト教の演目「復活のキリスト」が上演される。日本とバチカンの国交樹立七十五周年の記念公演で、シテ(主演)のキリストを二十世宗家、宝生和英(かずふさ)(31)がつとめる。和英は「能は宗教を超え、相互理解を重んじてきた。あらゆる信仰の人たちに鑑賞してもらいたい」と話す。 (藤浪繁雄)

 世界各地でテロや紛争が相次ぎ、国際情勢が不安定化する中での公演に、和英は「能は歴史的にいろいろな文化を吸収し、柔軟性がある懐が深い芸能。それだけに意義がある」と強調する。

 六百五十年ほどの歴史を持つ能は、日本に伝来するまで洋の東西の影響を受けながら発展してきた。日本では神仏習合に適応し、さまざまな宗教や神も受け入れてきた。例えば、天下太平を祈る「翁(おきな)」のように「すべての人の心の中にある神を映し出す」という趣旨の曲もある。

 和英は近年、イタリアで公演を重ね、舞台美術に工夫を凝らした「高砂」「乱(みだれ)」といった曲で好評を得てきた。観客が祈るように鑑賞している姿を舞台から見て「ミサに近いと思った」と話す。バチカンで能が上演される機会が少ないことから、今回の上演に気合をみなぎらせている。

 「復活のキリスト」は、ドイツ人宣教師の原作を五七年に宝生流十七世宗家の宝生九郎(〇〇〜七四年)が演出とシテで初演。キリストがよみがえり、それを見届けた信徒の女性たちとのきずなを描く。六三年の再演後は「廃曲」となっていたが、最近、流派の蔵からこの曲で使われた冠や装束類、謡(うたい)や所作の書き付けなどが見つかり、復曲の機運が高まっていた。

 バチカンでは十五〜十六世紀に建てられたカンチェレリア宮殿で上演される。和英は「単に披露するだけでは『日本、すごいね』で終わってしまう。一方通行の交流ではなく、お客さんたちが多様な考え方をいかに理解し合えるか。そのきっかけにしたい」と語り、能が持つ相互理解のパワーに託す。「翁」や「羽衣」といった能の代表的な曲目も披露する。

 これに先立ち、二十一日にはイタリア北部ヴィチェンツァの世界最古の室内劇場「テアトロオリンピコ」で開催される「第七十回古典演劇フェスティバル」で「翁」を公演する。

<復活のキリスト> イエズス会のドイツ人宣教師で、上智大学長も務めたヘルマン・ホイヴェルス(1890〜1977年)の原作。教義への日本人の理解を促す一環として手掛けた。57年4月に東京・水道橋能楽堂(現宝生能楽堂)で初演。重厚な芸風の宝生流にあって異色の新作で、機関誌「宝生」は当時「珍らしく始めての新作能が生まれた。しかもキリストをシテとするという思い切り異色の能であつた」(原文ママ)と記している。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報