東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 放送芸能 > 伝統芸能一覧 > 記事

ここから本文

【伝統芸能】

<評>歌舞伎座「六月大歌舞伎」 傑作の「一本刀土俵入」

 歌舞伎座「六月大歌舞伎」夜の部の「一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)」が面白い。松本幸四郎の駒形茂兵衛は博徒になってからの世間をはばかる苦みと凄(すご)みとがよく利いている。市川猿之助のお蔦(つた)は癇(かん)が強く捨て鉢な女と見えながら、茂兵衛を前にして不意に優しさのこぼれ出る具合がホロリとさせる。大詰(おおづめ)は一変して実のある女房ぶり。市川猿弥の船戸の弥八に軽みがあって傑作。

 「鎌倉三代記」の冒頭に阿波の局と讃岐の局、富田六郎、おくるが出て状況を説明する場面を付けたのは後述する「わかりにくさ」への配慮か。幸四郎の佐々木高綱の顔が見惚(みほ)れるほどに立派。中村雀右衛門の時姫は前回よりも一層舞台が大きく華やかになった。片岡秀太郎の母長門が引き締まった芝居で存在感を発揮する。

 「曽我(そが) 綉(もよう) 侠(たてしの) 御所染(ごしょぞめ)」、片岡仁左衛門の御所五郎蔵はリアルな味の濃さが独特。市川左團次の土右衛門に色気が、雀右衛門の皐月(さつき)に女房らしい情があって、この特殊な三角関係が改めて面白く見られる。

 昼の部は尾上松緑の「名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)」、猿之助の「浮世風呂」に続いて「御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち) 弁慶上使」。中村吉右衛門の弁慶はスケールが大きく、雀右衛門初役のおわさは丁寧堅実。中村又五郎の侍従太郎、市川高麗蔵の花の井も質実でいい。

 昼夜に様式的な義太夫狂言が並ぶが、クドキの間などに時折ポカンとした戸惑うような空気が客席に漂うのが気がかり。歌舞伎の要である義太夫狂言が「わかりにくい」と敬遠されるようになっては一大事だ。二十六日まで。

(矢内賢二=歌舞伎研究家)

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報



ピックアップ
Recommended by