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【伝統芸能】

<らくご最前線>自ら楽しんで進化 春風亭一之輔

 九月十二日、東京・国立演芸場で春風亭一之輔の定例独演会「真一文字の会」を見た。二〇一二年に二十一人抜きの真打ち昇進で話題となって五年、一之輔は今や東京を代表する演者の一人と言っていい。この会も毎回、前売り発売と同時に完売だ。

 一席目は「代脈」。名医の弟子が大店(おおだな)のお嬢さまの往診に行く話だが、一之輔はこの弟子を与太郎っぽいキャラではなく、やや乱暴ながら愛嬌(あいきょう)のある人物として描くことで、新鮮に笑わせる。

 二席目は、恨みのある講釈師にこしょうの粉を吸わせて高座を妨害しようとする「くしゃみ講釈」。前半の講釈師にいたずらを仕掛ける男二人組のやりとりが実に面白い。この噺(はなし)、男がこしょうを買うために「のぞきからくり」の「八百屋お七」の口上を言うくだりが現代の観客には通じにくいのが難点。だが、一之輔は「いきなり大声で歌い出すヘンなヤツ」として豪快に演じ、聴き手に余計な疑問を抱かせない。

 三席目は大店の旦那の殺人的にヘタな義太夫をみんなが恐れて逃げ惑う「寝床」。歴代の名人が手掛けた名作落語だが、一之輔はそこにオリジナル演出を存分に持ち込んで爆笑を誘う。

 中でも秀逸だったのが「みんな私の義太夫がヘタだから聞きたくないんだろ!」とすねる旦那を番頭がなだめすかす場面だ。番頭は言う。

 「確かにヘタです。それでも私たちは聞きたいんだ。なぜだかわかりますか? みんな、あなたが好きなんですよ。それでもあなたは逃げるんですか? 臆病者になりたいんですか?」

 このぬけぬけとしたせりふのおかしさこそ、一之輔落語の真骨頂だ。

 一之輔は自分自身で落語を楽しみながら演じ、演目を日々進化させている。だから何度聞いても飽きない。この日の三席も、そんな彼の真価を存分に見せつけた。 (広瀬和生=落語評論家)

 

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