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【伝統芸能】

<語り継ぐ>(中)優しく「特攻の悲劇」 桂竹丸(60)

 駄じゃれ、毒舌を連発し、観客の笑いを誘うのが得意な落語家の口調がだんだんゆったりしてくると、創作落語「ホタルの母」の始まりだ。出撃を翌日に控える特攻隊員をいつものように迎える食堂の“おばさん”、鳥浜トメさんの温かい鹿児島弁は、あるべき日常を奪われた悲しみ、怒りを浮かび上がらせる。

 海軍の特攻基地があった鹿児島県鹿屋市出身で、祖父母や親から戦時中の出来事を子守歌代わりに聞かされて育った。同県・知覧の陸軍特攻基地の隊員とトメさんの交流を描いた「ホタル帰る」を読んで「重い題材だが、聞く人が想像力で話を作り上げる落語なら、優しく伝えられるのではないか」と考えたという。

 太平洋戦争の開戦当初は少年たちの飛行訓練場だったが、戦況が悪化した末期は特攻の拠点に。「ホタルの母」では「明日死んだら、ホタルになって帰ってくるよ」と隊員が言い残した翌日、一匹のホタルが食堂に舞い込む。終戦に「あの子たちは死ぬことなかったんじゃないですか?」とむせび泣くトメさん。「あなたたちのことは、決して忘れませんがよぉ」。お国言葉が胸に染みる。

 寄席は笑いに来るところ。「つらい話は聞きたくない」という観客もいる。落語ではおなじみの「オチ」もない。だが「またかと思われても語っていかないと、だんだん薄れていってしまう」。まず聞いてもらい、何かが引っ掛かってくれたら−。二〇〇五年の初演以降、鹿児島などの小・中学校、高校を中心に各地で演じ続けている。

 「トメさんはこう思ったのではないか」。気付きがあれば話は深みを増す。新たな証言、資料から、命懸けで特攻に反対した隊長に着目した新作が生まれるなど、広がりも見せている。「『ホタルの母』はライフワーク。この話を作ってから一層、平凡な日常があることに感謝しなきゃいかんな、と思います」

 

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